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2001年市民フォーラムレポート

2001年大賞受賞/ムハマド・ユヌス

タイトル
マイクロ・クレジットと女性の自立
開催日時
9月15日(土・祝)16:00~18:30
会場
福岡市役所15階講堂
対談者
伊東 早苗(名古屋大学大学院国際開発研究科助教授)
対談者
宇治 松枝(バングラデシュと手をつなぐ会事務局長)
コーティネーター
應地 利明(滋賀県立大学人間文化学部教授)

バングラデシュの貧困な農村女性を対象に、独創的な無担保小口貸付を実現すべくグラミン(村落)銀行を創設し、開発と貧困根絶という現代的課題に挑戦しつづける経済学者、ムハマド・ユヌスによる市民フォーラムが9月15日、福岡市役所15階講堂で行われた。

女性を中心に多くの市民、学生、研究者、NGO関係者で埋め尽くされた会場は、ユヌス氏の強い信念と情熱に満ちた言葉に、終始熱気に包まれていた。
 はじめに應地氏が、ユヌス氏の活動がバングラデシュの女性を自立させ、新しい社会の変化を生み出していること、学術研究賞の内容を社会活動の分野まで広げた初めての受賞者であることなどを紹介した。

第1部:基調講演

第一部は、まずユヌス氏が、バングラデシュの独立後、人々が飢きんに苦しみ死んでいくのを目の当たりにし、無担保の小口貸付を行う貧しい農村女性のための銀行を設立したこと、その活動がバングラデシュ全土へ広がっていったとなど、グラミン銀行創設の経緯と目的を語った。
医療と教育を中心にバングラデシュで支援活動をしている宇治氏は、グラミン銀行の活動が、男性優位の社会で、厳しい立場におかれている女性たちに自立の力を与えるきっかけになったと評価。現地での調査経験がある伊東氏は、農村に行こうともしない政府の役人に比べ、1~2時間も歩かなければ行けない村に、雨でも嵐でも毎日訪問する銀行スタッフの意識の高さに感動したことを語った。また、ユヌス氏は会場からの質問に応え、貸付を受けた女性が創意工夫してビジネスを創出する姿や、乳幼児の死亡率が低下し、人口増加率も低下したといった社会変化が起こっていること、そして、就学率の向上など、プログラムが次の世代を重視したものとなっていることなどを紹介した。

第2部:トークセッション

第二部は、ユヌス氏が、世界各地に広がっていった活動の経緯を述べ、世界の半数の人が1日2ドル以下の生活を余儀なくされている今日、銀行を利用できない貧しい人々の創造力をどのように経済に生かしていくかが、我々のチャレンジであるとして、グラミン銀行の現状と問題点を示した。

伊東氏は、グラミン銀行がパイオニアとしての役割を果たしたことにより、貧しい人にも金融サービスを提供する動きが世界に広がっていると、その成果を称えた。これからの取り組みについての質問にユヌス氏は、グラミン銀行はマイクロ・クレジットプログラムの初期の段階であり改善する点も多い、今後、信頼性や効率性を高めながら少しずつプログラムを進めたいと答えた。 最後に、應地氏が「この新しい金融システムは、人間が希望や意欲をもって生きることの大切さを知るユヌス氏が熱情をこめて創始したもの。今日は、ユヌス氏の人間的な大きさや温かさを熱風として感じた」と感動の気持ちを表し、フォーラムを締めくくった。

2001年学術研究賞受賞/速水 佑次郎

タイトル
経済開発における市場、国家および共同体
開催日時
9月14日(金)14:00~16:30
会場
福岡市役所15階講堂
パネリスト
原 洋之介(東京大学東洋文化研究所所長)
コーディネーター
末廣 昭(東京大学社会科学研究所教授)

フィリピンなどアジア諸国での四半世紀に及ぶ地道な農村調査と卓越した理論構築力を結びつけて、従来の研究を大きく塗り替える新しい開発経済学を構築した、アジアを代表する経済学者、速水 佑次郎氏による市民フォーラムが9月14日、福岡市役所15階講堂で行われた。

末廣氏は趣旨説明の中で、自らのタイでの研究を例に「今のアジアは、単なる市場任せや政府の介入だけではなかなかうまくいかない」と述べたうえで、新たに「共同体」の役割に着目した速水氏の考えを野心的な試みとして紹介した。

第1部:基調講演

基調講演で速水氏はまず民間財と公共財を例に、市場と国家の役割を述べ、経済活動を制御するもう1つのシステムとして顔が見える「共同体」の重要性を主張した。「市場が競争、国家が強制であるならば、共同体は協力のメカニズムである」「3つの要素はそれぞれ補完しあい、各ウエイトは経済発展の度合いや文化に関係する」と説いた。また、欧米と日本の罪と恥の文化の違いを示したルース・ベネディクトの『菊と刀』を引用しながら、恥の文化である日本は共同体に軸足を置いた経済システムであった点を指摘。今後もそれでいいのかという問いを投げかけて講演を終えた。

第2部:パネルディスカッション

ディスカッションで原氏は、世界銀行の開発への考え方の変遷を追いながら、国家と市場以外の要素についての認識が次第に出てきたこと、文化も含めた共同体の視点が今後重要であるのではないかとの見解を示し、速水氏の理論を強く支持した。
会場からの、共同体の負の側面に関する質問に速水氏は、「競争のない社会では、共同体が腐敗の源泉になる」と述べ、市場・国家・共同体がバランスよく相互の役割分担を果たす大切さを強調した。

会社共同体が崩れつつある日本で、今何が求められているかという議論で原氏は、「共同体の行方については、生きる意味などの非経済的な価値をどこに置いているかという問題抜きには考えられない。」とし、速水氏は「共同体中心の協調から、新しい協力関係が含まれた競争メカニズムに軸足を移し、それをうまくデザインできるか否かが日本の将来を決定するだろう」と述べた。長期のバランスと多元的なバランスをとるという、共同体が持つ仕組みに関する議論では、両氏とも家族や地域社会の関係を新しく築き直す必要性を、また、グローバル化と国や民族のあり方をめぐる議論では、国を超えた、地域としてのアジアとのつながりを、日本そして福岡が深める重要性を強調した。

最後に末廣氏が「競争と自由の大切さが増す反面、信頼と安心が失われてきている。解決のヒントはアジアにあり、それを知る今回のような催しは非常に貴重」とフォーラムの意義を述べ、締めくくった。

2001年芸術・文化賞受賞/タワン・ダッチャニー

タイトル
タワン・ダッチャニー 魂のメッセージ
開催日時
9月14日(金)17:30~19:10
会場
福岡アジア美術館アジアギャラリー

タイのみならず、アジアそして世界を舞台に活躍し、タイ仏教に基づく独特の仏教観に根ざした躍動感あふれる独創的な画風で、専門家をはじめ幅広い大衆的な支持を獲得している、アジアを代表する画家、タワン・ダッチャニー氏による市民フォーラムが9月14日、福岡アジア美術館アジアギャラリーで行われた。

過去福岡で個展を行ったことがあるタワン氏は、今回の受賞記念の特別展示会場に詰めかけた市民を前に、友人と再会できたと、ユーモアたっぷりに喜びを表現し、トークを始めた。

アーティスト・トーク

タワン氏は、21歳のときの作品『崇拝』、35歳のときの『創造』、人間の罪を表現した『未来』の3点をそれぞれ解説し、「私は愛と信念をもって描き続けている。その愛はキャンバスの上に表れている。世界を愛するから、自然にあるもの、形あるものを描く。だから細部の説明は必要ない。作品に怒りや力強さが表されていたとしても、その中には必ず寂しさがある」と語った。

次に、会場からの質問を積極的に受け、一つ一つ丁寧に答えた。『ニミ・ジャータカ』の精密な手法については、「ボールペンによる作品で、仏教哲学を現代風に表現。細密な絵を描くのは集中力を高めるために」と説明。『崇拝』に描かれた日食については、かつて経験した半年に2度の日食とその2度目の瞬間に訪れた母親の死にふれ、「自然界の中で一番パワフルで、私たちを不安な気持ちにさせる唯一の出来事ではないか」と感慨を述べるとともに、芸術家にはインスピレーション、すなわち感覚的、ミステリアスなものが必要であると語った。

山岳民族が多いチエンラーイで生まれ育ったことによる作品への影響については、「チエンラーイは少なくとも30の民族が混在する国際的なところ。彼らの服装、言葉、生活様式、狩猟の仕方などからたくさんの影響を受けている」と答えた。カラフルな画風から白と黒の世界へと変化したことについては、「年を重ねいろいろな考え方が自分の中で煮詰まってくると、世界中が白と黒にしか見えなくなってきた」とその心情を語り、氏の作品は心の目で見てほしいと訴えた。

会場に展示されている自宅の写真や、当日の衣装などにまで説明がおよび、服装や生活様式など日常生活においても独創性を追求する氏の姿を垣間見ることができた。また福岡の印象を聞かれて、「いつまでも魂の中で響き続ける初恋の気持ち」と答え、福岡の街と人々に対する好意を表した。

会場の人々に「愛」というメッセージを残したトークは、「作品の細部を解説するよりも、お互いの心にふれあうことに意味がある」と主張するタワン氏らしい内容となった。

終了後もタワン氏は、参加した市民との記念撮影や握手などに気軽に応じ、個別の質問にも丁寧に答えるなど、和やかな交流はいつまでも続いていた。

2001年芸術・文化賞受賞/マリルー・ディアス=アバヤ

タイトル
わたしが伝えたいものー民衆とその社会
開催日時
9月15日(土・祝)13:00~15:00
会場
イムズホール
コメンテーター
清水 展(九州大学大学院比較社会文化研究院教授)
コーディネーター
佐藤 忠男(映画評論家)

今日のフィリピンを代表する映画作家であるマリルー・ディアス=アバヤ監督による市民フォーラムが9月15日、イムズホールで行われた。

佐藤氏はディアス=アバヤ氏を紹介し、貧困、児童労働、出稼ぎなどのフィリピンの厳しい現実を描いた氏の作品には強烈な社会批判が込められている、しかし、否定されるべき人物も人間として魅力的に表現され、社会全体や人間そのものが豊かに描かれていると、その作品の素晴らしさを語った。

トークセッション

ディアス=アバヤ氏は、学校や家庭で英語が会話に使用される環境で育ち、さらに欧米で映画を学び、西洋の影響を受けていく中で、自国文化に強い疎外感を感じるようになったこと、映画製作をはじめたときフィリピンのことを何もわかっていない自分に気づき、英語をやめフィリピノ語を使うようにしたことなど、西洋と自国の文化の狭間で揺れ動いた自らの心情を語り、それがフィリピンの歴史的経験の反映でもあると説いた。多様な文化や言語があり、国の概念や統一的な文化が形成しにくかったフィリピンを、スペインがキリスト教で一つにまとめ、今も精神面に深い影響を与えている。後のアメリカ支配は、英語と民主主義、資本主義の繁栄をもたらしたが、相矛盾したさまざまな文化の影響が、フィリピン人のアイデンティティや文化を探る試練となっていると指摘した。

次に、最近の映画製作の話題に絡めながら、漁師たちや子どもたちと仕事をするうちに、人々は貧しいほど親切で、生活が素朴であるほど心豊かな生き方をしていることを知ったと語った。

さらに、初めて見たイラン映画で、結婚や教育など、イランの人たちが自分たちと同じ心配をしていることを理解したことにふれながら、600年以上にもわたるフィリピンでのイスラム教徒とキリスト教徒との闘いを題材とした作品への思いを述べ、アメリカのテロ事件にも言及して「映画は単なる娯楽にとどまらず、平和交渉に使われる言葉にもなりうるのではないか」と、映画の持つ力について熱っぽく語った。

清水氏は、貧しく弱い人たちに焦点を当てながら、貧困や社会の不正義、抑圧の問題を取り上げている氏の作品は、娯楽映画であると同時に、社会の現実へ眼差しを注ぐ映画であると、その魅力を語った。また、日本との人的交流の強さを強調、日本人がフィリピンを理解する意義と重要性を力説した。

最後にディアス=アバヤ氏は「人生は生きるに値すると訴える希望の映画をつくっていきたい」と抱負を述べた。さらに、新たな課題に直面している日本人へ、富の減少はかえって質の高いより人間的な生活をしていく素晴らしいチャンスになるのではとアドバイスをして、話を締めくくった。会場からは感謝の言葉が数多く寄せられ、感動に包まれたまま、フォーラムは幕を閉じた。

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各種イベントレポート

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