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2008年市民フォーラムレポート

2008年大賞受賞/アン・ホイ氏

タイトル
女性のフレキシブルな感性は国境を越えて
開催日時
2008年9月13日(土)/13:30~16:35
会場
アクロス福岡地下2Fイベントホール
司会
石坂健治(東京国際映画祭アジアの風プログラミング・ディレクター)
対談者
高樹のぶ子(作家)

「映画と文学の世界」と題して、大賞受賞者のアン・ホイ氏と高樹のぶ子氏の対談が実現。映画監督から見た文学の世界、小説家から見た映画の世界を話しながら、多くの共通点を見出した、参加者にも興味深い対談を紹介しましょう。

第1部:対談 アン・ホイ×高樹のぶ子

作家の高樹のぶ子さんをお迎えして、映画監督から見た文学の世界、小説家から見た映画の世界について対談していただきました。

国境を超える、女性の感性

石坂氏:アン・ホイ監督、今回の受賞おめでとうございます。アン・ホイさんと高樹さんは、ほとんど同年代、同世代。このお2人の対談は福岡ならではでございます。

高樹氏:アン・ホイ監督を知るのには、代表的な作品である「客途秋恨」がいちばんいいと思います。第2次世界大戦の末期、その終了とともに日本に引き揚げてくるべき女性が、中国に残されて、中国の男性と結婚し、娘を産みます。その娘とお母さんは、なかなか理解し合えない関係。あるとき、お母さんの故郷である九州の別府にいる兄弟、娘にとっての伯父さんを2人で訪ねてきます。その旅で、お母さんが異文化や異国の中で苦労してきたさみしさを娘が理解し、初めて母親と娘の関係が修復されていくという、国、民族、異文化、そして母親と娘の関係を的確に描いた、九州が舞台の映画です。 この映画の中で、中国本土の広州、香港、マカオ、日本と、それぞれの土地から伝わってくる、人を動かすものを感じました。監督はそういうことを意識して作られたのですか。

ホイ氏:この映画を作ったのは20年前です。そのころ私は人間関係の物語にとても興味があり、脚本家と話をして香港と日本の関係を描くような映画、その中に親子関係も描きたいということで、まずはこの2つの場所のコントラストを描こうと思いました。さらに、それぞれの地域のオーラ、感情といったものを描きたいと思いました。

高樹氏:私は福岡に住んでいますが、福岡を舞台にすると、あまり物語が動かないんですね。というのは、知り過ぎているからです。自分の生活空間から離れた所の方が、とても自由に物語が動くということが、私にはあります。監督はどうでしょうか。

ホイ氏:私もそうですね。ただ、最近は香港を舞台にしています。といいますのは、30年前に映画を始めたころと比べると、香港はずいぶん変わりました。どのような変化が香港に起きたかに、とても興味があります。それを香港の観客に伝えたいということで、今は香港を舞台にした映画作りが多くなっています。

石坂氏:最近、文学の方では芥川賞を中国の方が受賞されました。国籍に関係なく、日本語で書く方が芥川賞を取るというシンボリックなことがありましたけれども、高樹さんはこの動きをどういうふうにお考えですか。

高樹氏:中国語で育ってきた楊逸(ヤン・イー)さんが日本語で表現した「時が滲(にじ)む朝」が芥川賞を取ったことは、非
常に画期的なことです。こういった異質なものに対しての受け止め方については、女性の方がフレキシビリティーがあると思います。ですから、アン・ホイさんが描いている、国と国の感性の違いみたいなものが融和されていくには女性の感性
がキーワードになると、私は感じています。

ホイ氏:私も女性の方が、その能力はあると思います。このことを含めて、これから上映される「おばさんのポストモダン生活」が様々なことを伝えてくれると思います。

第2部:映画上映「おばさんのポストモダン生活」

この映画は、実話に基づき撮影しました。コメディーでもなく、悲劇でもない、不思議なストーリー展開でしたので、撮影にあたり様々な困難や不安がありました。しかし、「ジャンルを超えた描き方に加え、今の香港の諸問題、現実を描いている」と香港で好評で、非常にうれしく思っています。不安感を持ちながらも、前に進んでいくことは冒険ではありますが、いい結果を生むことをこの映画製作から学びました。

おばさんのポストモダン生活
おばさんのポストモダン生活
2007年制作/110分
香港電影評論学会最優秀監督賞・最優秀作品賞・最優秀女優賞受賞作品

2008年学術研究賞受賞/サヴィトリ・グナセーカラ氏

タイトル
アジアを中心に、人権を国際的に考える
開催日時
2008年9月14日(日)/16:00~18:00
会場
アクロス福岡地下2Fイベントホール
コーディネーター
中村尚司氏(龍谷大学研究フェロー)
パネリスト
多谷千香子氏(法政大学教授)
パネリスト
モンテ・カセム氏(立命館アジア太平洋大学学長)

「アジア的価値観と人権」と題したサヴィトリ・グナセーカラ氏の講演と法政大学教授の多谷千香子氏、立命館アジア太平洋大学学長のモンテ・カセム氏をパネリストに迎え、龍谷大学研究フェローの中村尚司氏をコーディネーターとしてパネルディスカッションが活発に行われました。

第1部:基調講演

サヴィトリ・グナセーカラ氏による市民フォーラムの第一部・基調講演が「アジアを中心に、人権を国際的に考える」と題されて開催されました。

西洋で生まれた人権が、アジアからの視野や経験を取り入れて発展

「普遍的な人権」という考え方に対して、1993年の「バンコク宣言」に見られるようにアジアの一部諸国等では、アジアにはアジア的価値観があり、西洋的な人権概念は文化の押しつけであるという批判や、人権を理由に各国の内政に干渉されることへの懸念が示されることがあります。

私は、自分の経験や仕事から人権は非常に重要である。個々人のものであり、汎用的なもの、普遍的なものである。すべての人を、さまざまな対立、権利の乱用、虐待、抑圧などから守らなければならない。すべての人には、暴力のない、対立のない、平和な社会に住む権利があると考えています。

人権はもともと西洋の市民自由権に基づいたものですが、それが変わってきました。これを「権利の不可分性」といいます。われわれは現在、障害者の権利、高齢者の権利、子どもの権利といったグループの権利も重要であると考えるようになっております。もちろん個人の市民自由権も重要です。新しい条約、例えば女性に関する条約、子どもに関する条約、高齢者に関する条約、障害者に関する条約はすべて、市民自由権と教育、健康などの両方に主眼を置いています。時がたつにつれ、家族の重要性が認識されるようになりました。そして、コミュニティーとコミュニティーの権利が重要視され、愛情、尊敬を持った関係が大事になってきたわけです。例えば、子どもに対する責任、良い市民となるべく、良い環境の中で育てていくという責任です。児童虐待があったり、暴力があったりという状態であれば、国家に介入する責任があるということです。これが人権における家族のコンセプトです。 だからこそ、日本を含め、アジアの多くの国々で、ドメスティックバイオレンス防止法が制定され、児童虐待防止法が制定されました。この目的は、必要な場合には介入するということです。

南アジアの国を考えてみてください。インドのように、非常に大きな経済成長を遂げている国がありますが、教育と医療の保障も国家の責務であり、これを放置すれば不作為の責任を問われます。そしてまた、国家以外の主体である企業も、やはり責任を負います。違う分野ではありますが、責任を負うわけです。西洋の伝統的な慣習の中では、人権侵害に関しては国家だけの責任であると考えられていましたが、最近では、国家だけでなく、非国家的な主体も人権に対する責任を負うと理解されてきております。

国際的人権は、もともとのルーツから大きく展開しております。もともとは西洋の伝統に基づいたリベラリズムでした。アジアを含むさまざまな地域が、この展開に大きく力を注いでいるわけです。国内・国際的な見地から大きく貢献しているわけです。そして、多くの分野、特に人権の解釈、子どもの権利、女性の権利、平等の意味、差別、虐待、搾取といった概念における貢献によって、憲法であれ、法廷の場であれ、人権の意味合いが広がり、最終的には国際的な基準がそれぞれの
国に当てはまる形になるわけです。

第2部:パネリストとの対談

龍谷大学研究フェロー中村尚司氏をコーディネーターにお迎えして、多谷千香子氏(法政大学教授)、モンテ・カセム氏(立命館アジア太平洋大学学長)を交えたパネルディスカッションを開催しました。

中村氏:サヴィトリ先生の言葉の中に、スリランカの現代社会、政治の状況に 対する深い悲しみと、それを乗り越えて、いかに希望を見い出すかと いう秘められた思いを感じ ました。先生のおっしゃるア ジア的価値は、アジアに限 らずアフリカなどの他の地 域も含め、もっと広範な人類 の挑戦の歴史が背景にあ ったという思いを持ちながら、 拝聴していました。

多谷氏:人権に関する考え方だけではなく、伝統や宗教、コミュニティーな ども変化しています。伝統を理由に差別を温存することなく、むしろ西 洋的な人権を入れて解釈し直すこと、そして、人権が エボリューショ ン(進化)していき、世界の人権のスタンダードに貢献していくことが、 アジアとヨーロッパをつなぐ人権の解釈ではないかと思っています。

カセム氏:人間が社会を構成して共に生きる上で、法律のような「決まり」の力 と、変化する現実に対応して解決策を見出すための人の「集まり」の 力とは、車の両輪の関係ですが、人権に関しても同様と思います。既 存の「決まり」が壁にぶつかるときには「集まり」が力になり、社会を進 化させるのです。そしてそのために、自由な言論を保障するためのメ ディアと、社会性と良心を醸成する教育機関の存在が重要であること はいうまでもありません。

2008年学術研究賞受賞/シャムスル・アムリ・バハルディーン氏

タイトル
多民族・多文化社会、マレーシアの経験
開催日時
2008年9月14日(日)/13:30~15:30
会場
アクロス福岡地下2Fイベントホール
コーディネーター
末廣昭氏(東京大学社会科学研究所教授)
パネリスト
鳥居高氏(明治大学商学部教授)
パネリスト
清水展氏(京都大学東南アジア研究所教授)
パネリスト
小野山亮氏(NGO福岡ネットワーク)

「多民族・多文化社会、そして一つの〈国民〉:マレーシアの経験」と題したシャムスル・アムリ・バハルディーン氏による講演に続いて、パネルディスカッションが行われました。マレーシアやスリランカ等各国の多民族社会をフィールドとするパネリストから興味深い事例や意見が示され、質疑応答の際には会場からの質問が相次ぎ、多民族、多文化の共生に対する市民の関心の高さがうかがえた。

第1部:基調講演

シャムスル・アムリ・バハルディーン氏による市民フォーラムの第一部・基調講演が「多民族・多文化社会、マレーシアの経験」と題されて開催されました。

人々の経験を豊かにする、マレーシアの多様性

マレーシアは、一つの国家、そして多民族・多文化の国です。先住民であるマレー人が約50%、華人が23%、そのほかの先住民が11%、インド系が7%、そのほかが7%で、シャム民族、ユーラシア大陸のどこかの民族、パキスタン人、ヨーロッパ系の民族も含まれています。宗教についても、イスラム教、仏教、キリスト教、ヒンドゥ教があり、儒教、道教、シャーマニズム、中国から来たさまざまな宗教などがあります。民族の多様性をさらに複雑化させているのが宗教の多様性だといえます。言語もマレー語、英語、北京語、タミル語、ボルネオで話されているカダザン語やイバン語があり、地方言語が200もあります。

つまり、この国でわたしたちは、非常に豊かな多様性を形成しています。世界の多くの研究者から「多様性は利点か。あるいは欠点か」という挑戦的な質問を受けますが、わたしは「マレーシアの多様性は、人々の経験を豊かにするものだ」と答えています。

マレーシアでは、皆が異なった存在であることを知っています。人が違えば、好みも違い、求めるものも違います。では、多様性による違いを、どのように扱っていけばいいのでしょうか。多様性はあってもいいわけですが、それをうまくコントロールしていかなければなりません。そうしなければ、爆弾を抱えたような国家になってしまいます。さまざまな方法を用いて、異なるもの、多様性への対応をうまく管理していくことができると思います。

マレーシアの将来については、2大政党システムが必要だと考えます。これにより、チェック&バランスが提供できると思います。また、国として生き残っていくためには、ノンストップで、社会のすべてのレベルで交渉を続けていくことが重要だと思います。「わたしたちの文化を認めてもらう」というバーゲニング(交渉)を行っていくことが必要だと思います。これは重要であり、現在も効果を発揮しています。

第2部:シンポジウム

東京大学社会科学研究所教授である末廣昭氏をコーディネーターにお迎えして、鳥居高氏(明治大学商学部教授)、清水展氏(京都大学東南アジア研究所教授)、小野山亮氏(NGO福岡ネットワーク)を交えたシンポジウムを開催しました。

末廣氏:マレーシアは「マレー人」のみの国家ではなく、たくさんの民族、たくさんの文化をベースにつくられており、それを尊重しながらも、一つの国、一つの国民である、つまり「マレー人」ではなくて、「マレーシア人」の新しい国をつくろうという、大変な実験を行おうとしています。

鳥居氏:多民族国家であるマレーシアのマネジメントはうまくいっていると私は考えます。その理由の1つは民族間のルールという憲法の規定があること、2つ目は非常に巧みな政治の仕組みがあること、3つ目は持続的な経済成長をしたこと、4つ目は、シャムスル先生の最後のサイコロジカルというお話と部分的に一緒になりますが、民族紛争を記憶していることです。この4つの理由で、この国はうまくいっているのです。

清水氏:東マレーシアにあるサバ州の場合、半島部のマレーよりもさらに民族の共生が進んでいます。シャムスル先生が文化的、民族的な多様性の重要性をおっしゃいました。違うことが大事だということです。国際結婚が増え、外国人労働者が入ってくるなど多民族社会になっていく日本社会にとっても、サバ州あるいはマレーシアは一つのお手本になるだろうと思います。

小野山氏:スリランカは同じ多民族国家のマレーシアと違って、不幸にも民族紛争が起こっている状況です。攻撃行為自体をやめて、対話や正義を実現することが求められるのではないか、その中で地方への分権、少数民族や市民の権利保護を進めなければならないと思います。マレーシアのように平和で豊かな社会になることを願い、今後も日本の市民社会として何ができるか、努力をしていきたいと思っております。

2008年芸術・文化賞受賞/フォリダ・パルビーン氏

タイトル
ユネスコ無形世界遺産「バウル・ソング」の夕べ
開催日時
2008年9月13日(土)/17:00~19:00
会場
イムズホール
解説
藤井知昭(国際文化研究所所長)
出演
フォリダ・パルビーン(歌・ハルモニアム)
出演
ガジ・アブドゥル・ハキム(バンスリー)
出演
シェク・ジラル(ドタラ)
出演
デベンドロ・ナッツ(タブラ)
出演
レザ・バブ(ドール)

フォリダ・パルビーン氏の圧倒的な歌唱力とハルモニアムの柔らかな音色にメンバー4名の伝統楽器が奏でるリ ズム、『バウル・ソング』は多くの参加者を魅了した。アンコールを含む全7曲の歌と演奏の合間にはコーディネーター藤井知昭氏による解説、フォリダ氏へのインタビュー、メンバー及び楽器の紹介も行われた。

バウル・ソングの夕べ

フォリダ・パルビーン氏による圧倒的な歌唱と伝統楽器が奏でる柔らかな音色をお楽しみいただく「バウル・ソングの夕べ」が開催されました。

幻想的な雰囲気に包まれたステージでは、バンスリー(竹笛)の演奏が始まりました。演奏者は、フォリダさんのご主人であるガジ・アブドゥル・ハキム氏。彼はバングラデシュにおけるバンスリーの第一人者であり、日本をはじめ、世界中の国々を歴訪しています。

両面を叩く形の太鼓であるドールという楽器や、高音と低音の2つの太鼓がセットになったタブラ、4~5弦の三味線系撥弦楽器ドタラが次々に演奏に加わり、柔らかな音色が会場全体を包み込みます。

フォリダ・パルビーン氏の圧倒的な歌唱力とハルモニアムの柔らかな音色にメンバー4名の伝統楽器が奏でるリズムは、多くの参加者を魅了しました。

福岡アジア文化賞年次報告書ダウンロード

福岡アジア文化賞授賞式の様子や各種イベントのレポートを含めた2008年度の事業報告書を、PDF形式でダウンロードいただけます。

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各種イベントレポート

2008年度の市民フォーラム以外のイベントレポートをご覧いただけます。