大きく
小さく

文字サイズ:

2010年市民フォーラムレポート

2010年大賞受賞/黄秉冀(ファン・ビョンギ)氏

黄秉冀(ファン・ビョンギ)氏による市民フォーラム
タイトル
韓国音楽の伝統と創造
開催日時
2010年9月19日(日)/14:30~16:30
会場
イムズホール
進行役
藤井 知昭氏(国際文化研究所所長)

韓国伝統音楽の紹介をはじめ、カヤグムを中心にチャングやコムンゴなどの多彩な韓国伝統楽器の解説を交えながら、その調べに浸ったファン氏の市民フォーラ ム。卓越した音楽的想像力により、千数百年にわたる伝統と現代性、国際性の見事な融合が醸し出す、美しさと幽玄の妙をお楽しみいただきました。

音楽世界について語るファン氏
音楽世界について語るファン氏
立ち見もでるほどの満員御礼
立ち見もでるほどの満員御礼
パンソリの迫力ある歌声
パンソリの迫力ある歌声
“昔と未来をつないでこそ、真の伝統継承”

国際文化研究所所長の藤井知昭氏と、黄秉冀氏が対談。カヤグムの特徴や、黄氏と韓国伝統音楽との出合い、音楽家を志したきっかけなどエピソードを交えながら、黄氏の音楽世界について語り合いました。

カヤグム演奏を行うファン氏

黄氏は「作曲を始めたのは26歳の時。従来の伝統音楽に新しい自分の創造を加えて、昔と未来をつないでこそ真の伝統の継承だと思った」と持論を展開。代表作「沈香舞」については、「当時の伝統音楽といえば李朝時代から受け継いできたもの。その伝統を打ち破るために、さらに時代を新羅時代にさかのぼった。当然楽譜などは残ってないが、新羅時代の遺跡や彫刻、遺品などが語りかけてくるものを感じ取り、舞曲を作った」と語りました。

藤井氏が「韓国の音楽で日本と大きく異なるのはチャンドンというリズム。韓国では長短を交えた3拍子」と指摘すると、黄氏は「長短を繰り返す韓国の音楽は、陰陽の概念に通じるものがあり、生命を生み出すことそのものと考えられている」と解説しました。

韓国の演奏家5氏と黄氏が氏の代表作を披露しました。黄氏自ら「沈香舞」を演奏したほか、チャングとコムンゴによる器楽「楽道吟」、歌曲「鞦韆詞」など計5曲を披露し、会場の盛大な拍手を浴びました。

2010年学術研究賞受賞/ジェームズ・C・スコット氏

ジェームズ・C・スコット氏市民フォーラム
タイトル
統治する国家・支配されざる民
開催日時
2010年9月17日(金)/18:30~20:30
会場
イムズホール
コーディネーター
藤原 帰一氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
コメンテーター
清水 展氏(京都大学東南アジア研究所所長・教授)

近代国家による支配と被支配の関係を多角的に研究してきたジェームズ・C・スコット氏による基調講演の後、東京大学大学院教授の藤原帰一氏をコーディネー ターに、京都大学東南アジア研究所所長・教授で福岡アジア文化賞学術研究賞選考委員会副委員長でもある清水展氏を交えて意見交換しました。

市民フォラームでのスコット氏基調講演
市民フォラームでのスコット氏基調講演
スコット氏フォーラムゲストの清水氏と藤原氏
スコット氏フォーラムゲストの清水氏と藤原氏
スコット氏による市民フォーラム会場
スコット氏による市民フォーラム会場
“山地民は柔軟で流動性に満ちている”

ほとんどの東南アジアの地域では、山地民と平地民は基本的に異なる人だといわれています。平地民はいろいろな社会階層、税金、歴史、文明があり、何より水 田稲作があります。人々を集め、力を集中して行う水田稲作は、生産性も高く穀物を小さな地域に集めるために非常に重要です。

ジェームズ・C・スコット氏市民フォーラム

一方、山地民は、焼畑農業、分散型の耕作です。永久的な国家が存在せず、体系的な課税制度はありませんが、比較的平等主義が図られ、文化的・言語的な多様性があります。このような山地民と平地民の違いは永久的であると見られてきました。

しかし、歴史的に見ると、非常に多くの人々が同じ時期に、山地から平地へ、逆に平地から山地へと移っています。20世紀の前までは、平地の人々がよく山地に移り、山地民となっています。徴兵制、課税、疫病などから逃れるため、あるいは政治的、宗教的な違いのために国家から逃れたのです。

山地は分散に適した社会構造で、系統樹は分断化していきます。すなわち、大きな集団を小さな集団、そして核家族へと分断していきます。圧力を受けると、どんどん小さく区切られていくのです。山地民は国家からの圧力がなければ水田稲作をし、圧力が高まると焼畑農業になり、さらに大きな圧力がかかると焼畑農業から採集狩猟に移ります。つまり外圧によって農業形態が変わるのであって、生態的な選択ではないのです。

多くの地域では、水田稲作、焼畑農業、採集狩猟の三つの選択肢があり、その中で彼らは選択をしてきました。国家との関係において、彼らにとって政治的に一番よいものが選ばれたわけです。また、山地民は歴史を持たないことを自ら選択した、あるいは自分たちが何者であり、どこから来たのかという自らが必要な歴史だけを持つという特徴もあります。そのような選択は平地の国家に対する政治的・戦略的な適用であり、シンプルで原始的な条件によって形成されたわけではありません。

ジェームズ・C・スコット氏とのパネルディスカッション

藤原帰一氏をコーディネーターにお迎えして、清水 展氏を交えた意見交換を行いました。

---藤原 帰一氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
スコット先生は、権力に対し正面からの抵抗はしなくてもさまざまな手段で自らの生活を守ろうとする農民や、野蛮人として見られている山地民の姿を、自ら現地で生活を共にして彼らの信頼を得ながら、また日常の生活においても牧畜を行い農民の暮らしを実践する中で明らかにしてきました。
政治学は、政治に関係ない人に目を向ければ向けるほど難しくなります。肩書きのない一般の人々が何を考えているのかは、自分で努力しなければ分からないのだと、いつも謙虚に取り組んでおられます。知らないことに対する強い好奇心と、自分を守る権力を持たない人に対する関心、そして愛情が感じられます。
---清水 展氏(京都大学東南アジア研究所所長・教授)
一昨年、タイ北部山地のラフ族の村に調査に行きました。彼らは今も焼畑農業を中心とした伝統的な生活を守りながら、衛星放送のパラボラアンテナやオートバイなど、新しいものを取り入れています。彼らは孤立しているのではなく、常に外部との緊張関係の中で拒絶していたり、受け入れられるものは積極的に受け入れたり、ダイナミックな関係の中で生きているのです。

2010年学術研究賞受賞/毛里和子氏

毛里和子氏による市民フォーラム
タイトル
中国式発展モデルの向かう先~中国は、世界モデルになりうるか~
開催日時
2010年9月18日(土)/17:00~19:00
会場
イムズホール
コーディネーター
天児 慧氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)
パネリスト
堀井 伸浩氏(九州大学大学院経済学研究院准教授)

中国の発展モデルは世界基準となり得るか、など未来への考察を中心に講演。後半は、早稲田大学大学院教授の天児慧氏、九州大学大学院准教授の堀井伸浩氏を交えたパネルディスカッションを開催しました。

基調講演を行う毛里氏
基調講演を行う毛里氏
コーディネーターの天児先生
コーディネーターの天児先生
パネリストの堀井先生
パネリストの堀井先生
“現代中国研究に対する3つの挑戦”

現代中国を研究する上で注意すべき点は無数のパラドックスが存在し、私たちの常識があてはまらないこと。このため懐疑的になる必要があります。

こうしたなかで、私は現代中国研究に対して次のような三つの挑戦をしてまいりました。

  1. 中国社会を三元的に捉えて考える「三元構造論」(中央政府・地方政府の二元構造に、末端の自治的単位を加えた三元構造)
  2.  
  3. 他のアジアの国々諸国との共通点に着目し、同じ民主化の道をたどるとみる「中国のアジア化」
  4.  
  5. 変わる政策、変わらない制度に注目する「制度化の視点」(土地の公有制など根本的な制度)

毛里氏フォーラム会場

中国を分析し将来を考える道筋として、中国の発展モデルは四つ考えられます。民主化と市場化を目標とする「普通の近代化モデル」、明治維新以来、日本が歩んできた道や台湾などアジア型民主政治への道をたどる「東アジアモデル」、儒教など伝統的価値を重んじる「伝統への回帰モデル」、中国独自のモデルをつくり上げる「中国は中国モデル」です。私は「東アジアモデル」で中国の現在・未来を考えることが多いです。

中国は改革開放から30年間で経済成長を実現しました。成長の牽引者は政府・党自身で、民間が強いというよりいわゆる官製資本主義、国有企業や国府が潤い、エリートと大衆の間に格差が生まれています。こうした発展の道に対しては諸説ありますが、近未来についての暫定的観察ということでは中国式発展モデルは普遍モデルにならず、またアメリカと並ぶ帝国になるのは、世界に公共財、文化力(支配的価値)、周縁に自立的に国民経済を許さないグローバルな経済力を提供できるか、という帝国の条件を満たさないことから無理だろうというのが私の結論です。しかし、中国は国の大きさとスピードでグローバリゼーションを主導する存在になると思っております。従って日本も慎重な対応と注目、分析が必要になります。

毛里和子氏とのパネルディスカッション

コーディネーターに天児慧氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)、パネリストに堀井伸浩氏(九州大学大学院経済学研究院准教授)を迎えてのディスカッションを行いました。

---パネルディスカッションおよび質疑応答
中国経済研究の立場から毛里氏の「官製資本主義」、「中国の変わる政策・変わらない制度」に触れながら民営企業の果たしてきた役割や市場化に言及し「制度は実は変革しているのでは」と提起、さらに民主化について「経済のダイナミズムから見ても条件が整いつつあるのでは」とし、毛里氏は「民主化の条件についてはリベラルな中間層の存在や支配エリート間の分化など政治学的に考え、注意深く観察する必要がある」と加えました。
また、中国に対する関心の高さから、会場より宗教、民族、環境問題をはじめ多くの質問が寄せられ、3氏は限られた時間の中で分析を交えて説明。最後に日本との関係、尖閣諸島問題の質問に、毛里氏からは、「外交のうまい中国の情緒的対応」や「国内世論への脆弱性」、「両国が扱いにくい相手と感じている関係から成熟した関係へ」等の観点による見解が、天児氏からは中央政府のコントロールに関する懸念とともに「日本は尖閣諸島を近代国際社会の論理に沿って領土とし、中国は近代国家による前の理屈、事例をもって主張」とすれちがいを説明、双方の議論による解決をと締めくくられました。

2010年芸術・文化賞受賞/オン・ケンセン氏

オン・ケンセン氏による市民フォーラム
タイトル
身体の越境~オン・ケンセンの挑戦~
開催日時
2010年9月18日(土)/13:30~15:30
会場
イムズホール
進行役
内野 儀氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)

福岡アジア文化賞芸術・文化賞選考委員である内野儀氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)を進行役に迎えたフォーラムでは、これまでにオン・ケンセン氏が手掛けた作品の一部を上映。本人の解説を交えながら、多彩で斬新な世界観に触れました。

自らの想いを熱く語るオン氏
自らの想いを熱く語るオン氏
自身の作品をスライドにて上映
自身の作品をスライドにて上映
進行役の内野先生
進行役の内野先生
“多様な選択肢を提供したい”
  1. インターカルチュラリズム。1970年代後半から、様々な文化の間に立ち活動されている。
  2. 劇団シアターワークス「フライングサーカス・プロジェクト」といった、アーティストの相互交流、プロセス重視の作品づくり。
  3. 助成ネットワーク、アーツネットワークアジアを立ち上げ、アジアの芸術家の創造を助けている。

オン氏が行う活動のなかで、今回アジア文化賞を受賞するきっかけとなった主な取り組みが上記の3つの活動です。オン氏は、アジア・世界へとエネルギッシュに幅広い活動をされています。今までの功績のみならず、まだ若いオン氏には、これからの10年、20年、30年と今後が大きく期待される方ですと紹介。オン氏の作品の上映へと移っていきました。

最初に上映されたのは、シェークスピア作の「リア王」を題材に、日本人脚本家の岸田理生が台本を手掛けた作品「リア」。六つの異なる国の出身者である役者一人一人が母国の言語でせりふを話し、現実世界そのままの複雑性を舞台化。演出スタイルが話題を呼び、オン氏の存在を世界に印象づけた代表作品です。

オン・ケンセン氏フォーラム

次はカンボジアの人々が、ポルポト政権時代の虐殺を乗り越え、今へと続いてきたかを描き出した「コンティニュアム-虐殺の場所の彼方へ-」。ステージの上を“死者と対話する場所”とし、スクリーンに映し出されるVTRと生の演技をミックスさせた印象的な舞台を作り上げました。

3番目は、ステレオタイプな日本のイメージを意識した作品「ゲイシャ」。日本舞踊や歌舞伎をイメージさせる動きや三味線の音色に、現代的な電子音をミックスさせており、時代や文化、性別をクロスさせ、当たり前という思いこみをくつがえさせる表現方法に参加者全員が引きつけられました。

第4に、第2次世界大戦後、BC級戦犯として処刑された山本正一氏の息子のインタビューを通じて、戦争の記憶とは何なのか、誰の戦争の記憶なのかを問いかける「サンダカン葬送歌」。写真と映像と生の演技を織り交ぜた柔軟な表現方法で、公式発表されている歴史とは違った、見る者に様々な解釈の選択肢を提供しました。

スタンダードな再構築をテーマに古典的表現を求めた1990年代、ドキュメンタリーとしての演劇を広く手掛けた2000年代。オン氏は「私の表現はキルティングのような作業。一つ一つ集めたパーツを紡いでアウトプットし、色々な可能性を表し、見ている方にイマジネーションを膨らませてほしい。」と話します。2010年代は、さらに遊び心に満ちたミステリアスな世界観の表現に期待が高まります。客席からも「日本で生の舞台を見たい」との声が多数上がっていました。

福岡アジア文化賞年次報告書ダウンロード

福岡アジア文化賞授賞式の様子や各種イベントのレポートを含めた2010年度の事業報告書を、PDF形式でダウンロードいただけます。

2010年福岡アジア文化賞年次報告書ダウンロード

各種イベントレポート

2010年度の市民フォーラム以外のイベントレポートをご覧いただけます。