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2014年市民フォーラムレポート

2014年大賞受賞/エズラ・F・ヴォーゲル氏

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タイトル
激動の東アジア、今、そしてこれから~エズラ・ヴォーゲル氏からの提言~
開催日時
2014年9月17日(水)/19:00~21:00(開場18:00)
対談者
天児 慧(早稲田大学大学院教授)
会場
エルガーラ 大ホール

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で著名な、本年度大賞受賞者、エズラ・F・ヴォーゲル氏をお迎えし、エルガーラホールにて市民フォーラムを行いました。東アジア研究の権威としても知られる氏とともに、東アジア激動の”今”をどう捉え、”これから”どこに向かうのかを考えました。

対談者の天児慧氏
対談者の天児慧氏
対談するヴォーゲル氏と天児氏
対談するヴォーゲル氏と天児氏
会場からの質問に答えるヴォーゲル氏
会場からの質問に答えるヴォーゲル氏

第1部:エズラ・F・ヴォーゲル氏による基調講演

“まず自分の誤りを認めた上で、世界平和への貢献を発信する”

forum1-middle1.jpg私は、日本と中国に多くの親しい友人がいますが、両国を研究し、 私自身も体験してきた立場から、40年の日中関係の歴史をできる だけ客観的に見ていきたいと思います。

1972年、田中角栄が訪中して日中国交正常化が実現します。しかし、正常化を急ぐあまり、あらゆる条約が未調整のままスタートし、入国手続き等の問題が未解決のままでしたので関係はそれほど進展しませんでした。それから1978年に鄧小平が来日し、新日鉄の工場や日産の自動車工場を視察。新幹線で移動して松下幸之助に会い中国でのテレビ製造について協力を依頼します。こうして日本から中国に多くの援助が行われ、日本の小説やテレビ番組が中国で紹介されるなど相互交流が進められました。

こうして80年に日本で実施されたアンケートでは、78%が中国 はよい国と答えていましたが、今では9割以上がよくないと思ってい ます。この変化の要因はいろいろあります。中国は、89年の天安門事件の対応により各国から非難されますが、日本との関係改善に努め92年には天皇陛下の訪中が実現。しかし、91年に冷戦が終結すると対ソ連において戦略的協力関係にあった日本を重視しなくなり、さらに90年代に自信をつけてきた中国は日本の援助や戦争被害に対する意識も変わってきます。98年に江沢民が来日しましたが、日本の国民感情を理解せず、良好な関係を築くことができませんでした。また中国とアメリカの緊張関係が続いたことは、同盟国の日本にも影響しました。それから、尖閣列島の国有化、靖国神社の参拝などで日中関係は冷えこみます。

もう少し相手の立場を考え、相手国を刺激しないことで関係悪化を防ぐことができたかもしれません。なぜなら国の指導者は強さを示さなければならず、相手側の圧力に対して簡単にイエスとはいえないからです。ですから、衝突を避けるために別の柔らかい方法をよく考えることが重要です。

中国側は、尖閣諸島の周辺から船や飛行機を減らすことで緊張を緩和することができます。また、中国では第二次世界大戦の映画ばかりが放映され、日本を軍国主義だと思い込んでいる人が多いので、私は日本の平和への努力、国際貢献について説明しています。日本人は、第二次世界大戦について歴史的観点からもっと勉強するべきです。また、南京事件や慰安婦問題については、様々な数字や割り切れないこともありますが、殺したことや慰安婦自体は悪かったとして認めることです。その上で戦後70年間、日本は戦争が起こらないように願い、世界平和と国際交流に本当に貢献してきたことを説明し、今でもその気持ちを持っていると外国人に誇りを持って訴えることです。

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第2部:対談

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授の天児慧氏を対談者・コーディネーターにお迎えして、これからの東アジアについて対談を行いました。

“可能なら実現させたい3カ国対話の枠組み”

 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は、近代化を歩む国が共通して抱える環境問題や核家族化の問題などを、日本がうまくクリアし、克服していくことに焦点を当てた名著だと指摘する天児慧氏が、現在の日本と中国について質問。ヴォーゲル氏は、他国と比べて低い犯罪率、高い教育水準、格差の少ない社会など、日本の良さを強調しました。また、中国の新しい指導者については、広い人脈と腐敗問題への大胆な取り組みを紹介。会場から日中戦争の可能性について質問が寄せられると、同氏も含めた中国関係の専門家がその可能性は低いと考えているとの見解を示しました。

今後の日中間の関係について、天児氏が日米中のトライアングルでの対話の枠組みを提案。これに同氏も賛同し、「米国が中国に2国間での対話グループの結成を呼びかけ、そこで環境問題や省エネ問題を取り上げ、この問題は日本が強くて詳しいから、3カ国で一緒にやろう、という具合に進めていける」という可能性を語りました。

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2014年学術研究賞受賞/アジュマルディ・アズラ氏

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タイトル
民主化し発展するインドネシア~日本・欧米・イスラーム世界を結ぶ絆~
開催日時
2014年9月21日(日)/17:00~19:00(開場16:00)
コーディネーター
清水 展(京都大学東南アジア研究所教授)
パネリスト
中村 光男(千葉大学名誉教授)
パネリスト
大形里美(九州国際大学)
会場
アクロス福岡地下2Fイベントホール

総人口の約9割、2億2千万という世界最大のイスラーム人口を有するインドネシア。近年「民主化」「改革」を合言葉に、イスラームを基調とする穏健な市民社会の形成・発展と、順調な経済成長を続けています。日本の大切なパートナーであるインドネシアの現状から、今後の日本、アジア、世界が共存共栄してゆく方途について語り合いました。

コーディネーターの清水展氏
コーディネーターの清水展氏
パネリストの中村光男氏
パネリストの中村光男氏
パネリストの大形里美氏
パネリストの大形里美氏

第1部:アジュマルディ・アズラ氏による基調講演

“新政権発足で進む両国の緊密化”

forum2-middle1.jpgインドネシアは多文化主義の国で様々な異なる伝統を持っている国であり、多くの宗教を持つ国でもあります。全人口2億4千5百万人の88.7%、2億人以上がイスラーム教徒ですが、イスラーム国家ではありませんし、国教を定めてはいません。我が国ではパンチャシラ、つまり建国5原則が拠りどころです。1.唯一神への信仰 2. インドネシアの統一 3.人道主義 4.民主主義 5.国民への社会正義。これが国の重要な基盤であり、宗教的にも友好的な原則です。我が国のイスラーム教は穏健さを重要視し、平和的で土着の文化を包容し、寛容性もあって他宗教との共存も堅持しています。

 我が国には市民社会をベースとした大きなイスラーム組織があります。最大の組織ナフダトゥル・ウラマーは頭文字からNUと呼ばれ、会員4千万人に達しています。もう1つの組織がムハマディアで、 幼稚園から大学まで13,000もの学校を持っています。このようなイスラーム組織は他の国にはみられないもので、これが我が国の穏健さにつながっており、国と草の根の人々との仲介や、社会的な融和を保つ役割も果たしています。我が国はこの組織をベースに安定した社会を実現しており、非常に恵まれていると思います。

今年7月に大統領選挙があり、誰かが殺されることもなく平和的に行われ、前ジャカルタ州知事のジョコウィ氏が選出されました。我が国は日本と同じ民主主義国家であり、相互に経済的な利害関係も持っていますが、新政権の誕生によって両国の関係はさらに緊密になり、強化されることでしょう。我が国は現在、年率5~6%の経済成長を持続し、さらに伸びると予想され、中間層も急増しています。 新政権は電気や発電、交通網などのインフラ開発を進め、汚職やマフィアの根絶に積極的に取り組んでいくでしょう。

 日本とインドネシアは中東湾岸諸国から原油を輸入しており、中東のイスラームの国から信頼され、敬意を払われています。また我が国はこうした中東諸国に影響力を持っています。両国はどちらも中東エリアに地政学的な利害関係を持っていません。したがって両国が仲介することで、中東地域に平和をもたらす試みを進めることができるかもしれません。東京で開催する平和会議に、両国が中東諸国に参加を呼びかければ、その要請を受けるのではないでしょうか。平和の構築という素晴らしい仕事について、インドネシアと日本が協力していくことができれば、大変うれしいことと思います。

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第2部:パネルディスカッション

清水展(京都大学教授)をコーディネーターにお迎えし、中村光男(千葉大学名誉教授)および大形里美(九州国際大学教授)らとともにパネルディスカッションを行いました。

“努力が報われる、安定した社会の証”

インドネシア研究40年という大ベテランの中村光男氏が、研究者・歴史学者、教育者、公共的知識人という3つの観点から、アズラ氏の業績を紹介。民主化し発展するインドネシアそのものを体現し、イスラーム世界と日本、欧米を結ぶ人物だと結論づけました。イスラーム研究の必読書とされる著作については、アラビア語で書かれたイスラーム学者の伝記を資料に、17・18世紀の中東からインドネシアに及ぶ広大なエリアが緊密に連携し、独自のイスラーム文化圏を形成していた事実を示したと紹介。そしてアズラ氏がインドネシア国立イスラーム大学に医学部等を新設し、総合大学に昇格させ、その際、日本政府から30億円の借款を実現したことを指摘しました。

これを受けて清水展氏は「苦学してここまでの地位を築かれたアズラ氏ご自身の努力と運もありますが、努力すれば報われるという事実が、インドネシアの安定した社会の証」と強調します。インドネシアの女性と企業を研究する大形里美氏は、スカーフ着用の観 点から女性の意識変化を追跡。最近ではイスラーム法を重視する傾向が強まっているとのインドネシア社会の分析を示しました。会場からのなぜインドネシアでは対立が生じないのか、という質問にアズラ氏は「我が国のイスラーム教は非常に包容的、寛容的、平和的だからです」と答えました。

2014年芸術・文化賞受賞/ダニー・ユン氏

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タイトル
あらゆる境界を越えて、人と人を繋ぐ~ダニー・ユンの試み~
開催日時
2014年9月21日(日)/13:00~15:00(開場12:00)
コーディネーター
内野 儀(東京大学大学院総合文化研究科教授)
パネリスト
佐藤 信(座・高円寺 芸術監督)
会場
アクロス福岡地下2Fイベントホール

芸術・文化賞受賞者、ダニー・ユン氏をお迎えし、アクロス福岡にて市民フォーラムを行いました。能と昆劇のコラボレーションも必見です。

講演するダニー氏
講演するダニー氏
コーディネーターの内野儀氏
コーディネーターの内野儀氏
パネリストの佐藤信氏
パネリストの佐藤信氏

第1部:ダニー・ユン氏による基調講演

“能と昆劇のコラボが新鮮な刺激”

forum3-middle2.jpgようやく福岡市民のみなさまにお会いすることができて、うれしく思います。みなさん、福岡アジア文化賞を誇りに思ってください。福岡は世界の中でも本当に重要な文化拠点の1つであり、アジアだけでなく世界にとっての交流拠点になってほしいと思います。

今日は最もクリエイティブな話をします。私は日本にも数多くの仲間がいて、様々な交流の経験を持っています。2010年に演出家の佐藤信氏の依頼を受け、上海万博の日本パビリオンで『トキ』のパフォーマンスを展開しました。このとき能と昆劇のコラボレー ションを考えたのです。能も昆劇も最も伝統的な歌劇で600年以上の歴史があり、2000年にはどちらもユネスコの無形文化遺産に指定されました。上海万博の閉会後も能と昆劇の交流は継続し、舞台上だけではなく、舞台裏や周囲でも交流しました。また、無形文化遺産の指定後にどんな変化が起きたのかについても語り合いました。芸術の保存と創造、教育と振興策、組織や制度、政府の財政政策などが、アートにどのような影響を与えるのか、重要な問題ですね。トキのような鳥は絶滅してしまうのか、保護するのか、観賞用に取っておくのか。それは私たちアーティストも同じであり、劇場の外へ出たとき、自分たちは本当に強くあり続けられるのかと問い続けることで、私はアーティストたちをエンパワーし、力を付けさせようと考えていたのです。私たちは経済的、政治的にどのような影響を受けているのか。これを理解していくことが、長期的な文化の発展の中では重要です。私たちが中国で常に直面しているのが政治的な干渉ですが、最近では文化コミュニティの中で様々な議論が交わされています。政治的な干渉によって、アートがプロパガンダに使われてしまうことがあり、教育の中に取り込まれている場合もあるのです。

 昆劇の演技を見るたびに、毎回違うところを発見します。なぜなら、人が伝統を受け継ぎ、体現しているからであり、人が無形文化遺産なのです。人は、博物館や美術館にモノとして飾られているわけではありません。いろいろな経験をして、多くのことを学ぶ機会があります。このような文化交流のためのプラットフォーム、つまり土台が重要であり、それを築くことで、お互いが相手の文化をよりよく理解でき、お互いの将来を考えることができるのです。

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第2部:パネルディスカッション

内野 儀(東京大学大学院総合文化研究科教授)をコーディネーターにお迎えし、佐藤信(座・高円寺 芸術監督)とともにパネルディスカッションを行いました。

“芸術の役割は、新ビジョンを示すこと”

内野儀氏が講演への補足解説と佐藤信氏の略歴を紹介。続いて佐藤氏は福岡アジア文化賞の役割について「芸術交流の面において都市間の交流が、今後はもっと大きな意味を持ち、非常に実り豊かなものになる」と位置づけ、これから花開いていく時代を迎えていくと解説します。そして「経済は今日の社会を相手にし、政治は明日の世界に関心を向けるが、文化芸術は常にあさってを問題にする。東西の対立が終わって世界の構造が変わる中で、人類はまだ次のビジョンを共有できていない。あさってを見つめて新ビジョンを示すことが、芸術の大きな役割。この意味でもユン氏の芸術は社会に何ができるのか、社会は芸術に何を返すかという問いかけは、非常に大きなテーマだ」と論を展開しました。

この後、ユン氏の演出作品『スピリッツ・プレイ』の映像を上映。「昆劇と能の役者がこの作品について考えを共有し、舞台の場、墓地の場、天安門広場の場などについて語り合った」と説明します。なぜ劇である必要があるのか、という会場からの質問にユン氏は 「舞台の特徴はリアルスペースであり、時間も空間も観客と共有する。映画とは違って至近距離でのインスタラクション(相互作用)が起きる。ステージ上での自由があれば様々な経験ができ、多くを学ぶことができる」と語りかけました。

福岡アジア文化賞年次報告書ダウンロード

福岡アジア文化賞授賞式の様子や各種イベントのレポートを含めた2014年度の事業報告書を、PDF形式でダウンロードいただけます。

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各種イベントレポート

2014年度の市民フォーラム以外のイベントレポートをご覧いただけます。