大きく
小さく

文字サイズ:

2018年市民フォーラムレポート

2018年大賞受賞/賈 樟 柯(ジャ・ジャンクー)

forum1-main.jpg
タイトル
賈樟柯の映画の原点:中国の"今"を撮る
開催日時
2018年9月19日(水)/18:30~21:30
会場
ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
パネリスト
行定 勲氏(映画監督)、市山 尚三氏(映画プロデューサー)
コーディネーター
石坂 健治氏(福岡アジア文化賞芸術・文化賞選考委員長、日本映画大学教授、東京国際映画祭「アジアの未来」部門プログラミング・ディレクター)

賈樟柯監督作品『山河ノスタルジア』の上映に続いて、賈監督を囲んでのパネルディスカッションを開催。学生時代から携わってきた映画づくりの原点からこれまでの作品に込めた思いまで、幅広く"賈樟柯の世界"を語り合いました。

映画監督の行定勲氏
映画監督の行定勲氏
映画プロデューサーの市山尚三氏
映画プロデューサーの市山尚三氏
コーディネーターの石坂健治氏
コーディネーターの石坂健治氏

第1部:映画上映『山河ノスタルジア』

時代の流れに影響を受けている人たちの感情に焦点を当てた映画

ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13で行われた市民フォーラム。大勢の市民が会場に詰めかけた中、賈樟柯氏の監督作品『山河ノスタルジア』を上映しました。

この作品は、大きな変貌をとげる中国の故郷に一人残る母と、幼くして父に引き取られ、遠い異国で暮らす息子との親子の愛を描いた物語です。カンヌ国際映画コンペティション部門正式出品作品としても知られ、台湾・金馬奨オリジナル脚本賞・観客賞、アジアン・フィルム・アワード脚本賞等を受賞した本作。約2時間にわたり、時代に振り回され、離れながらも強い愛情で繋がる母と子の感動のストーリーを堪能しました。

forum1-small4.jpg
山河ノスタルジア
2015年制作/35mm/カラー/125分
中国=日本=フランス/日本語字幕付き
大きな変貌をとげる中国の故郷に一人残る母と、幼くして父に引き取られ、遠く異国で暮らす息子との親子の愛を、監督自身の思い、経験を重ねながら作られた作品です。
※カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品、サン・セバスチャン国際映画祭観客賞、台湾・金馬奨オリジナル脚本賞・監督賞、アジア・フィルムアワード脚本賞等を受賞。

第2部:パネルディスカッション

「映画はその時代を記録する役割がある」

 forum1-middle1.jpg第2部は、映画監督の行定勲氏、賈氏の作品のプロデュースを務める映画プロデューサーの市山尚三氏、コーディネーターに石坂健治氏を迎えてディスカッションを行いました。

まずは、今回の受賞について、行定氏は「中国の"今"を描き、アジアをけん引してくれる監督が現れたなと思いました」と賈氏の栄誉を称えました。市山氏は「『一瞬の夢』という映画を見て、すごい監督が出てきたなと思いました。賈氏の映画は、今までの中国映画にはないリアリティがあります」と述べました。

賈氏は、「福岡アジア文化賞は私にとって大きなプレゼントです。私は1993年に北京電影学院に入学して日本の映画を知るようになり、黒澤明監督の『羅生門』や小津安二郎監督、大島渚監督の作品に出合いました」と喜びの声と日本とのつながりを話しました。

続けて、「私は中国の新しい社会とともに歩んできたと言えます。中国社会の変革の中で生き、大きな影響を受けています。中国の社会を描くことに興味があり、デビュー作から今まで絶えず中国の"今"を描いています。映画はその時代を記録する役割があり、どのような人が生きているのかを伝えていかなくてはならないと考えています。日本映画でいうと、小津監督の『一人息子』は日本の家庭状況を描いていると思います。中国では16~20歳くらいの若者が映画を観る層だと言われています。映画は娯楽的になりつつありますが、時代・社会を映す鏡であるべきだと思います」と語りました。

次に、パネリストによる「マイベスト賈樟柯作品」を紹介。行定氏は『青の稲妻』を選び、その理由を「青春映画の傑作だと思います。登場人物たちの、抗おうとするけど抜け出せず、全く未来が見えない姿が印象的です。映画の中の『30歳まで生きれば十分だろう』というセリフにリアリティを感じました。何にも似ていない映画です」と述べました。

市山氏は『プラットホーム』を挙げ、「賈監督と最初に仕事をした映画です。映画を撮るプロセスも素晴らしいのですが、なかなか撮影が終わらなかったことを覚えています」と撮影秘話を交えて紹介しました。

最後に賈氏から、中国で封切となった新作映画『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(英題)』の紹介があり、新作の日本公開に期待を寄せつつ市民フォーラムは幕を閉じました。

forum1-middle2.jpg

2018年学術研究賞受賞/末廣 昭

forum2-main.jpg
タイトル
私のアジア経済論40年:キャッチアップ型工業化論からデジタル経済論へ
開催日時
2018年9月22日(土)/11:00~13:00
会場
福岡市科学館 6階 サイエンスホール
パネリスト
大泉 啓一郎氏(日本総合研究所上席主任研究員)
コーディネーター
清水 一史氏(福岡アジア文化賞学術研究賞選考委員、九州大学大学院経済学研究院教授)

躍動するいまのアジアをどう捉えたらよいのか。日本のモノづくりをモデルとする「キャッチアップ型工業化論」から、韓国・台湾企業による日本企業の追い抜き、そして、情報通信の技術と消費者の大量データがモノづくりの方向性を規定する現在のデジタル経済論まで、アジア経済をみる視点のダイナミックな変遷が、本人の研究の試行錯誤と重ねて紹介されました。

パネリストの大泉啓一郎氏
パネリストの大泉啓一郎氏
第2部のパネルディスカッション
第2部のパネルディスカッション
コーディネーターの清水一史氏
コーディネーターの清水一史氏

第1部:末廣 昭氏による基調講演

タイを越えたアジア全体に視野を広げ、4つの段階でアジア経済論を展開

forum2-middle1.jpg私は大学入学前からアジア研究をやりたいと思っていて、1972年にタイで起こった日本商品不買運動などをきっかけに、タイを研究テーマにしようと考えました。ですが、1997年のアジア通貨危機がターニングポイントとなり、タイだけを見ていたらアジアのことが分からないと痛感して、以後積極的にアジアの問題に視野を広げるようになりました。私のアジア経済論は、ドイツのインダストリー論にならい、1.0から4.0の4つの段階に分けて展開しています。

まず、「アジア経済論1.0」は、人口爆発の問題から入ります。人口が増加することにより、経済成長が低くなり、アジアは低開発であるとされてきました。

次に、私が最も力を注いでいる「アジア経済論2.0」について。後発国がとる工業化として、日本の経験が一つのヒントになっていると考えました。経済的後進性の優位、つまり、遅れて工業化を始めた国は、先発の国よりもいくつかの点で有利な点があります。例えばすでに開発された技術を導入して、それを利用することができます。ですが、後発性の利益を発揮するためには条件が必要で、数ある後発国の中でなぜ東アジアだけが発展を遂げたかというと、①政府レベル ②企業家レベル ③生産現場レベルで工業化のための社会的能力の形成が実現したということが挙げられます。

「アジア経済論3.0」では2.0の見直しを行いました。アーキテクチャ論のオープン化とモジュラー化が進むことによって、電子産業の場合は後発国の企業が先進国を越えることも可能になったのです。ここで強調しておきたいことは、これを実現しているのは「国」ではなく「企業レベル」のキャッチアップであるということです。単位が国から企業に移ったことに注目していただきたいと思います。

最後に、「アジア経済論4.0」について、実は私も今何が起きているのか十分わかりません。私がやってきたアジア経済論とは違うものが起き始めていると考えています。

第2部:パネルディスカッション

デジタル化が加速する中で、国家をどのように捉えればいいのか

大泉氏の「デジタル経済における国家の役割は」の問いに、末廣氏は「日本経済論をベースに考えると、制度・教育などの環境を整備した点では、国家は日本の産業発展に大きな役割を果たと言える。しかし、産業発展は民間企業の努力、というのが共通の認識。日本には技術革新の特徴としてイノベーションを支える国家的枠組みがあり政府が一定程度貢献するが、国家の介入をどこまで許すのかは関わり方が変わってくる。また、メガ企業とマイナー企業に対して同じサポートを行うと反発が起き政府としての公平さを失うことに。つまり従来型の国のサポートは、直接であれ間接であれ難しいのではないかと考える。」と述べました。

ディスカッション終了後も末廣氏の考え方に高い興味を持つ多くの市民が、同氏へ熱心に質問するなど大変活発な時間となりました。

forum2-middle2.jpg

2018年芸術・文化賞受賞/ティージャン・バーイー

forum3-main.jpg
タイトル
パンダワーニーの世界:インド古代叙事詩の歌語り
開催日時
2018年9月22日(土)/16:00~18:00
会場
福岡市科学館 6階 サイエンスホール
講演者
村山 和之氏(中央大学および和光大学非常勤講師)
講演者
沖田 瑞穂氏(日本女子大学家政学部および白百合女子大学非常勤講師、中央大学文学部兼任講師)
コーディネーター
小磯 千尋氏(金沢星稜大学教養教育部准教授)

インドの2大叙事詩の1つ『マハーバーラタ』は、紀元前1000年頃に北インド平原部において、いとこ同士で戦った王子たちの戦記。ティージャン・バーイー氏は、その様子を歌語りにしたパンダワーニーを現代に伝える第一人者です。氏が三味線のような弦楽器を手に、伴唱者とともに朗々と歌い上げると、まるで戦を目の当たりにするような臨場感に包まれます。

ティージャン・バーイー氏は、先住民であり女性であることで、二重にインド社会から差別されてきた中で、類まれな天賦の才と強い意志をもって歌い続け、女性や虐げられた人々に勇気・希望と励ましを与え続けてきました。

講演者の村山和之氏
講演者の村山和之氏
講演者の沖田瑞穂氏
講演者の沖田瑞穂氏
コーディネーターの小磯千尋氏
コーディネーターの小磯千尋氏

第1部:村山 和之氏、沖田 瑞穂氏による講演

“インドの大叙事詩を歌語りで披露し、地域を越えて人々の心を引き付ける”

forum3-middle1.jpg村山氏は講演で、パンダワーニーとは、インドの叙事詩『マハーバーラタ』の名場面を「歌語り」でパフォーマンスするもので、インド・チャッティースガル州を中心にその周辺で行われ、パフォーマンスはヒンディー語の方言であるチャッティースガリー語で語られることを解説。それは、民衆芸能として伝えられ、日本で例えると浪花節のようなものであると述べました。

ティージャン・バーイー氏が持つ楽器「タムラー」は3本の弦からなり、楽器の中に3人の神様がいると紹介。また、楽器であると同時にさまざまな見立てに使われ、弓やこん棒、もぎとられる腕などの役割を果たすとのこと。宗教的儀礼とは関係なく、自由にどこででも公演できると話しました。

続いて、沖田氏が『マハーバーラタ』は全18巻、約10万詩節からなる世界でも最大級の大叙事詩であると紹介。

『マハーバーラタ』の主題は、バラタ族の王位継承問題に端を発した大戦争であり、主役はパーンドゥ王の五人の王子と、彼らの従兄弟にあたる百人の王子。これらの英雄たちは、「化身」と呼ばれるインド特有の関係によって、天上における「本体」ともいうべき神的存在と結び付けられ、神と英雄たちとの関係が物語に大きく影響していると話しました。『マハーバーラタ』は決してハッピーエンドの英雄物語ではなく、戦争に加わったほとんどの戦士が死に、神の子である主役の英雄たちも人間としての罪と死を逃れることはできないという、きわめて深淵な神話であると講演を結びました。

第2部:ティージャン・バーイー氏によるパフォーマンス

第2部はティージャン・バーイー氏によるパンダワーニーのパフォーマンスが行われました。タムラーという三味線のような弦楽器を手に、絞り出すような声で歌い上げる姿は、まるで登場人物が憑依したかのようで、観客の心を強く引き付けました。

『ドラウバディーの花婿選び』では弓矢を手に取り、油の入った水槽の魚影から魚の目を射抜くというシーンが最大の見せ場でした。ティージャン・バーイー氏の得意演目であるという『ドゥシャーサナの殺戮』では、髪にドゥシャーサナの血を塗りつけて結わえるシーンを熱演。また、伴奏者とかわすやり取りも面白く、一瞬たりとも目が離せないパフォーマンスが披露されました。

【演目】
『ドラウパディーの花婿選び』
『ドゥシャーサナの殺戮』

【出演】
ティージャン・バーイー:パンダワーニー奏者
ケーヴァル・プラサード:タブラー(太鼓)
マンハーラン・サルヴァ:ダフリー(タンバリン)
ラームチャンド・ニシャード:ボーカル、マンジーラー(シンバル)
チャイトラーム・サフー:ハルモニウム(オルガンの一種)
ナロッタム・ネータム:ドーラク(両面太鼓)

forum3-middle3.jpg

各種イベントレポート

2018年度の市民フォーラム以外のイベントレポートをご覧いただけます。