贈賞理由
ダニー・ユン氏(本名:榮念曾(ロン・ニイェンツォン))は、演出家、劇作家、舞台美術家としてこれまで100以上の斬新な舞台作品を発表する一方、国際交流、文化政策、芸術教育の分野にも熱心に取り組み、アジアと世界、伝統と現代といった、領域や世代を越えた人と人とを繋ぐ多彩な活動で、アジアの芸術・文化の発展に大きく貢献している。
ダニー・ユン氏は1943年上海に生まれ、5歳の時に香港に移住、米国カリフォルニア大学バークレー校で建築学を学び、コロンビア大学大学院で修士号(都市設計)を取得した。1970年代後半に香港に戻り、82年に芸術家集団「進念・二十面體」の結成に参加、85年以降、同集団の芸術監督を務めている。映像等のマルチメディアを駆使しながらも、中国の伝統芸能を常に意識した氏の舞台作品では、伝統を現代に活かす道筋が探られている。『伝統を実験する』(1991年-)、『一つのテーブル、二つの椅子』(1997年-)と題された現在も継続中のシリーズは、多数の伝統芸能家と現代舞台芸術家の参加を得て、香港のみならず、東京、シンガポール、台北、上海、ベルリン、ニューヨークなど世界各地で上演された。20世紀を代表する京劇役者 程(チェン・)硯(イエン)秋(チウ)を取材して制作した演劇『荒山泪』で、ユネスコ国際演劇協会のミュージック・シアター・ナウ賞を受賞(2008年)。上海万博日本館で上演された短編舞台『トキ再生の物語』(2010年)では、中国伝統の昆劇役者集団による生の演技とデジタル映像によって、人間と自然の調和が美しく表現されている。公演は会期中6000回を超え、約400万人がその舞台に接した。
美術家としては、ビデオ、インスタレーション作品に加え、「天天向上」(中国語で「毎日進歩する」という意味)という名のキャラクターを題材にしたコミックやフィギュア、彫刻で知られる。ユン氏は同キャラクターを使ったワークショップを香港だけでなく欧米やアジア各地で実施し、自由な発想力の涵養が、新しい世界を創り出す原動力になることを人々に伝え続けている。
他方、香港芸術発展局の創設(1995年)に参画して以降、国際交流、文化政策、芸術教育の分野にも取り組み、自身がその創立に尽力した香港兆基創意書院(芸術高校)の理事を務めるかたわら、国際フェスティバル、共同プロジェクト、国際会議への参加や国際ネットワークの構築により、芸術家に限定しない人と人とを繋ぐ活動を世界各地で展開している。
このような活動の中、2009年にはドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を授与された。その他、香港現代文化センターの主席等としても引き続き、香港を中心とした東アジアの芸術文化界に大きな影響を与えている。 このように舞台芸術と美術にとどまらない多彩な分野で大きな貢献を果たしたダニー・ユン氏は、まさに「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。