贈賞理由

ミン・ハン氏は、ベトナムを代表するファッションデザイナーである。氏は多民族を有する同国文化への洞察をもとに、アオザイと少数民族の刺繍や織物を融合させた現代的なデザインを創造する一方、みずからファッションショーや文化イベントを同国内はもとより世界中で展開した。さらには若手デザイナーの育成や市場の開拓にも取り組み、ファッション産業界の発展を促し、アジアに特有の美しい装いを生み出すことに大きく貢献してきた。

ミン・ハン氏は1961年にベトナム中部のプレイクに生まれ、激化するベトナム戦争の渦中をフエ、ダナン、サイゴンと移動しながらも、少数民族が纏う衣装の鮮やかな色彩に囲まれて育った。幼い頃から人形の服を縫い、11歳でアオザイの制服を縫い上げた。1983年、ホーチミン市美術大学を卒業後、新聞社に挿絵画家として入社し、ファッション新聞の企画や編集を通してデザインの才能を発揮した。その後、1986年に始まるドイモイ(刷新)政策の中、同国初のファッション研究所「レガ・ファッション」の運営を機にファッションデザインに転じていく。こうした創作活動に加え、みずから「ベトナム・ファッションウィーク」や「ベトナム・コレクション・グランプリ」等を立ち上げ、若手デザイナーの育成や市場の開拓を手がけていった。

この間、伝統工芸である絹織物を自らの作品に活用することで甦らせ、少数民族に継承された刺繍や織物をデザインに取込み、現代的な感覚で大胆な色彩や柄の構成を追求した。それは単なる伝統の踏襲ではなかった。ミン・ハン氏は台頭する欧米ファッションの影響を意識的に相対化しながら、ベトナム固有の衣服文化と手仕事の技を再評価し、多彩で豊かな創造的デザインを生み出している。

こうした努力が評価され、1997年、初の国際的な挑戦であったアジアコレクション(幕張) で特別賞を獲得した。2002年には、ベトナム初の世界遺産として知られるフエの王宮を舞台 としたファッションショーをプロデュースし、現在もフエ芸術祭におけるアート・プログラ ム上級芸術顧問として重要な役割を果たしている。さらに2003年、京都の清水寺において、日越外交関係樹立30周年を記念するアオザイ・コレクション展を奉納し、2006年には、フ ランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエを授与された。あわせて欧米やアジアの各地でファッションショーを開催し、ファッション文化を通したベトナムの魅力を世界に広く知らしめている。また、ベトナム航空客室乗務員のユニフォームや2006年開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での各国首脳のコスチュームをデザインするなど、ベトナムを代表するデザイナーとしての業績を重ねている。

このように、ベトナム固有の文化の矜持を現代的な感覚でファッションに表現し創造を進め、若手の育成に取り組みながら、アジアのファッション文化の発展に貢献してきたミン・ハン氏は、まさに「福岡アジア文化賞 芸術・文化賞」にふさわしい。

80歳になるお母様と
イタリアのブランド ガッティノーニ社の社長,ベトナム大使とローマにて(2014年2月)
若手デザイナーと共にフエ省アールオイ地方の少数民族を訪問(2015年1月)