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グハ氏とアシシュ・ナンディ氏との対談

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7月24日、インド・ニューデリーにあるハビタットセンターにて、学術研究賞受賞者であるラーマチャンドラ・グハ氏への授賞伝達式を行いましたが、それに先立ちアシシュ・ナンディ氏(2007年(第18回)大賞受賞者)とグハ氏によるスペシャル対談が開催されましたので、一部を抜粋してお届けします。

---福岡アジア文化賞に対する印象をお聞かせください
ナンディ氏:アジア人による、アジアのための賞ですね。インドの有名な詩人・思想家であり、アジア人初のノーベル賞受賞者としても高名な、ラビンドラナート・タゴールは、英国植民地時代、インド独自の伝統や文化が損なわれるなかで、直接対話によるアジア隣国との交流を地道に続けてきました。日本へも数回に渡り訪日しており、画家の岡倉天心らとも深い親交があることも知られています。福岡市も、福岡アジア文化賞のような直接的な働きかけを、これからも続けていってほしいですね。
グハ氏:東京のような大都市でもなく、京都のような歴史ある古都でもない、いわゆる普通の一地方都市が、自身の判断で、アジアへの貢献者に敬意を示そうとしていることが、とても素晴らしいと思います。
---グハ氏は、日本と何かつながりはありますか?
グハ氏:直接的なつながりはありませんが、先ほど話が出たラビンドラナート・タゴールより前に、日本と深いつながりを持っていたラス・ビハリ・ボースという人物について言及させてください。彼は、当時、独立運動により日本に亡命していたのですが、その際、新宿にある中村屋の世話になり、後にそこの娘と結婚します。その後日本で初めてインドカレーを紹介し、定着させていきました。そんなボース氏が、インドにいた頃勤めていた研究所が、私の祖父と父が勤めていた森林研究所(Forest Research Institute)だったのです。そのようなつながりから、インドでは忘れ去られつつあるボース氏の存在を、改めて記憶に残していきたいと思っています。
---歴史家にとっての文化交流とは?
グハ氏:歴史家にとって、文化とは、政治や経済から切り離して考えるべきものです。福岡アジア文化賞も、政治やビジネスとは切り離し、純粋に文化だけに着目していますよね。先ほどお話があった、タゴールも文化と政治を区別していました。
ナンディ氏:タゴールは、インドやバングラデシュの国歌を作詞作曲していますが、これまで誰一人として国歌を変えようなどという主張はしてきませんでした。ヒンズー至上主義者でさえも、です。
歴史は文化交流にいい影響を与えますが、その影響は、極めて限定的とも言えます。歴史は解釈を狭めるため、文化も限定してしまうのです。アジア諸国が歩んできた道のりは、歴史だけでは語れません。歴史以外に、神話や音楽、そして記憶が世代間を伝わって存在しているのです。また記憶と歴史が一緒になることで、新たな文化交流が生まれることもあります。文化交流とは、良好な関係にある国と国との間にだけ行われるのではなく、どの層の人々と行うかも重要だと言えます。
グハ氏:歴史は、社会科学と文化の両方からインプットがあります。社会科学では、整理し順序立てて理解し結論を出す一方、文化は、そういう過程をたどりません。社会科学のような結論を導くものではないからです。
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歴史による教訓は何か?とよく聞かれます。政治家に助言する歴史家もいますが、私は歴史から導き出される教訓は一つしかないと思っています。それは、勝者や敗者は永遠ではないということです。どんな学者や政治家、また与党政権にもいえることです。政治家の政治生命には限りがあり、国家同士の話し合いも、ほとんど完結することはありません。しかし、個々の交流は長い間続いていきます。まさに、タゴールがいまだに評価されているように。ボースが日本に広めたインドカリーもまさにそうだと言えるのではないでしょうか。歴史家は政治家だけでなく、個人に対しても何も教えることはできませんが、より良い社会とは何かということは提示できるかもしれません。
ナンディ氏:インド・パキスタン分離独立時に起こった大虐殺の生存者は、想像を絶する過酷な環境のなかでも、まわりの人々と支え合い、助け合った温かい感情や記憶も持ち合わせています。その一方で、歴史として学んだだけの人々には悪い印象しかありません。インドが様々な問題を抱えるなか、平穏な社会を取り戻せているのは、記録に頼らないコミュニティによって共有されている記憶があるからなのです。一方で、文化交流には、お互いの文化を理解し合うだけでなく、相手文化に屈する恐怖も備わっています。故に、身近な文化ほど、衝突し残虐な惨事を引き起こすのではないでしょうか。パキスタンとインドがまさにそれです。
グハ氏:まさに、文化交流を、国や政治から切り離して考えなければならない実例ですね。例えば、教科書は、国家が統一的な歴史認識を国民に伝えるツールですが、インドとパキスタンでは解釈が異なります。インドが英国の統治下で抑圧されている頃、タゴールは、世界の大学を建設するという野心を持っていました。まさに、福岡が、アジアのための賞を創ろうとしたように。イギリス政府にも資金援助されましたが、各国を駆け回り、人々の共感を得、資金をかき集めました。彼は、まさに、文化交流がお互いの理解を深め、さらに人の尊厳を支えるということを実践してみせました。福岡アジア文化賞の概念は、彼のような人が象徴しているのではないでしょうか。

 

より深く、グハ氏の考えを知りたくなった方は、9月に福岡市内で開催される、市民フォーラムまでお越しください(参加無料)。直接お話を聞けるまたとないチャンスです!

 

ラーマチャンドラ・グハ氏による市民フォーラムのご案内

タイトル
ガンディーとインド、そして世界
開催日時
2015年9月19日(土)/16:30~18:30
会場
エルガーラ 大ホール

著しい経済成長のみならず「世界最大の民主主義国」として注目されているインド。言語、民族、宗教、カーストなど多様性を抱えながらも大国としての存在を維持し、その不思議な魅力は私たちを魅了し続けています。インド独立運動の父として知られるマハトマ・ガンディーの生涯を、グハ氏が熱く語ります。

 

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