パンダワーニーの世界:インド古代叙事詩の歌語り
開催日時
2018年9月22日(土)/16:00~18:00
会場等
福岡市科学館 6階 サイエンスホール(外部リンク)
講演者
村山 和之氏(中央大学および和光大学非常勤講師)
講演者
沖田 瑞穂氏(日本女子大学家政学部および白百合女子大学非常勤講師、中央大学文学部兼任講師)
コーディネーター
小磯 千尋氏(金沢星稜大学教養教育部准教授)
市民フォーラムレポートの写真

インドの2大叙事詩の1つ『マハーバーラタ』は、紀元前1000年頃に北インド平原部において、いとこ同士で戦った王子たちの戦記。ティージャン・バーイー氏は、その様子を歌語りにしたパンダワーニーを現代に伝える第一人者です。氏が三味線のような弦楽器を手に、伴唱者とともに朗々と歌い上げると、まるで戦を目の当たりにするような臨場感に包まれます。

ティージャン・バーイー氏は、先住民であり女性であることで、二重にインド社会から差別されてきた中で、類まれな天賦の才と強い意志をもって歌い続け、女性や虐げられた人々に勇気・希望と励ましを与え続けてきました。

講演者の村山和之氏
講演者の沖田瑞穂氏
コーディネーターの小磯千尋氏

第1部:村山 和之氏、沖田 瑞穂氏による講演

“インドの大叙事詩を歌語りで披露し、地域を越えて人々の心を引き付ける”

講演の様子

村山氏は講演で、パンダワーニーとは、インドの叙事詩『マハーバーラタ』の名場面を「歌語り」でパフォーマンスするもので、インド・チャッティースガル州を中心にその周辺で行われ、パフォーマンスはヒンディー語の方言であるチャッティースガリー語で語られることを解説。それは、民衆芸能として伝えられ、日本で例えると浪花節のようなものであると述べました。

ティージャン・バーイー氏が持つ楽器「タムラー」は3本の弦からなり、楽器の中に3人の神様がいると紹介。また、楽器であると同時にさまざまな見立てに使われ、弓やこん棒、もぎとられる腕などの役割を果たすとのこと。宗教的儀礼とは関係なく、自由にどこででも公演できると話しました。

続いて、沖田氏が『マハーバーラタ』は全18巻、約10万詩節からなる世界でも最大級の大叙事詩であると紹介。

『マハーバーラタ』の主題は、バラタ族の王位継承問題に端を発した大戦争であり、主役はパーンドゥ王の五人の王子と、彼らの従兄弟にあたる百人の王子。これらの英雄たちは、「化身」と呼ばれるインド特有の関係によって、天上における「本体」ともいうべき神的存在と結び付けられ、神と英雄たちとの関係が物語に大きく影響していると話しました。『マハーバーラタ』は決してハッピーエンドの英雄物語ではなく、戦争に加わったほとんどの戦士が死に、神の子である主役の英雄たちも人間としての罪と死を逃れることはできないという、きわめて深淵な神話であると講演を結びました。

第2部:ティージャン・バーイー氏によるパフォーマンス

第2部はティージャン・バーイー氏によるパンダワーニーのパフォーマンスが行われました。タムラーという三味線のような弦楽器を手に、絞り出すような声で歌い上げる姿は、まるで登場人物が憑依したかのようで、観客の心を強く引き付けました。

『ドラウバディーの花婿選び』では弓矢を手に取り、油の入った水槽の魚影から魚の目を射抜くというシーンが最大の見せ場でした。ティージャン・バーイー氏の得意演目であるという『ドゥシャーサナの殺戮』では、髪にドゥシャーサナの血を塗りつけて結わえるシーンを熱演。また、伴奏者とかわすやり取りも面白く、一瞬たりとも目が離せないパフォーマンスが披露されました。

【演目】
『ドラウパディーの花婿選び』
『ドゥシャーサナの殺戮』

 

【出演】
ティージャン・バーイー:パンダワーニー奏者
ケーヴァル・プラサード:タブラー(太鼓)
マンハーラン・サルヴァ:ダフリー(タンバリン)
ラームチャンド・ニシャード:ボーカル、マンジーラー(シンバル)
チャイトラーム・サフー:ハルモニウム(オルガンの一種)
ナロッタム・ネータム:ドーラク(両面太鼓)
パフォーマンスの様子

2018年 市民フォーラムレポート