愛と喪失の物語:三つのタイ古典文学と、今を生きる私たちへのメッセージ
開催日時
2017年9月24日(日)/11:00~13:00
会場等
エルガーラホール 8F 大ホール(外部リンク)

愛、その抗しがたい魅力、喪失、その別離の悲哀。愛する歓びと愛を失う苦しみは、人間の心を揺らすもっとも偉大な力だろう。タイの代表的な3つの文芸作品(神話的物語、16世紀の宮廷詩歌、17〜18世紀の民衆叙事詩)を取り上げ、人々を引きつけた魅力と、混迷する現在へのメッセージを考えます。

コメンテーターの宇戸氏
ディスカッションの様子
コーディネーターの清水氏

第1部:パースック・ポンパイチット氏、クリス・ベーカー氏による基調講演

文学的作品が現代社会に問い掛ける 愛の役割、協力の重要性、寛容性

パースック・ポンパイチット氏、クリス・ベーカー氏の写真

愛、その抗しがたい魅力、喪失、その別離の悲哀。愛する喜びと愛を失う苦しみは、人間の心を揺らすもっとも偉大な力でしょう。タイの代表的な3つの古典文学をもとに、愛と喪失というテーマを深く説いていきたいと思います。

 『スーソン・マノーラ』は、タイでは誰もが知っている物語です。半人半鳥の美しい生き物マノーラは、人間の世界でスーソン王子と深く愛し合い結婚しますが、政治的な陰謀によりそこを追われます。マノーラを探す旅に出たスーソンは、森を抜け、川を渡り、山を越え、長い年月をかけて再会を果たします。この物語は、いろいろな違いがあっても仲良く共存できることを人々に教えています。

 『リリット・プラロー』は4000行もの長い詩です。若き指導者プラローと隣国の王女パーンとペーンは密かに愛し合いますが、両家は敵同士であったため、3人とも虐殺されてしまいます。しかし国王は、3人の亡きがらを一つの棺に安置して壮大な葬儀を執り行い、その遺灰を分骨してそれぞれの国で納骨します。虐殺が和解で終わるこの物語は、仏教徒の慈悲心を表しています。

 『クンチャーン・クンペーン物語』は、地方の口承物語として発達した長編叙事詩。容姿端麗だが貧しいクンペーンと、裕福だが太って醜いクンチャーンという2人の男性が、美女ワントーンを巡って争う三角関係の物語です。情熱的な愛を表現するクンペーンと、安心と安らぎを与えてくれるクンチャーン。どちらか1人を選ぶことができない優柔不断な娘ワントーンに、王は死刑を宣告します。

  この3つの作品の中心にあるのは愛ですが、単なる恋物語ではなく、深く大切なものが描かれています。愛の役割や協力の重要性をたたえた文学作品は数多くあり、人類の歴史の中でこれらの価値観が果たしてきた役割を、私たちは忘れてはなりません。

第2部:パネルディスカッション

文化の違いを超えた両氏の共同作業はタイ古典文学に見る愛と協力そのもの

 基調講演を受けて清水氏は、「お二人は身をもって、文化の違いを超えた愛と協力を続けてこられた。その息の合った掛け合いは、まるでシェイクスピアの朗読劇のようだった」と感想を述べました。

 続いて宇戸氏が、基調講演の背景となったタイ古典文学について、時代区分と主要作品、大まかな特徴などを解説し、「中でも基調講演で取り上げられた3作品は傑出している」と述べました。宇戸氏自身も研究対象としている『クンチャーン・クンペーン物語』を「アユタヤ時代の政治、経済、社会、文化、風俗、民間信仰が実によく表れ、格言や金言の宝庫でもある重要な作品」と位置付け、両氏が長年かけて英訳した意義を高く評価。「経済学者・歴史学者という立場のお2人が古典文学に熱意を注ぎ、見事な共同作業によって文学研究者をしのぐ成果を出した」と、功績をたたえました。

 また、会場からの「物語の中に森に逃げる場面があるが、タイでは森はどういう意味を持つのか」という質問に対して両氏は「危険が潜む場所であるとともに、社会や権力に抵抗する勢力が身を隠す場所」と説明しました。

パネルディスカッションの様子

2017年 市民フォーラムレポート