ひとりの力と大勢の仲間の強さを求めて ― 難民の旅から研究者の旅へ
開催日時
2023年9月14日(木)18:30~20:30
会場等
アクロス福岡 国際会議場
対談者
田村 慶子氏(北九州市立大学名誉教授)
コーディネーター
竹中 千春氏(立教大学元教授)

第一部 基調講演

一人ひとりの行動が大きな力となり、世界に正義と光をもたらす

 政治学と東南アジア研究の研究者であり、若い世代の教育にも力を注いできたカターリヤ・ウム氏。第1部では、難民としての壮絶な経験、研究者としての精力的な活動の歩み、難民問題に対する人々への期待が語られました。

 冒頭では、1億人を超える人々が避難を余儀なくされている現状を示し、難民問題は世界の喫緊の課題であると指摘。環境破壊や輸入労働力への依存が及ぼす影響を例に挙げ、「難民は慢性的に生み出されている」と強調しました。
家族と共に米国に逃れ、カンボジア系米国人女性として初めて博士号を取得するまでの道のりは過酷なものでした。「大量虐殺のような歴史的なトラウマは、人間の魂をも傷つける」という言葉は重く、トラウマによる難民たちの「沈黙」の背景を、実体験をもとに伝えました。

 政治学との出合いと研究活動の指針について話した後、バークレー校での研究の日々を振り返りました。「知識の進歩だけではなく、自分たちのコミュニティを向上させ、日常に光と正義をもたらすことが私の責務です」と語るウム氏は、アジア人によるアジア研究がなかった状況に疑問を抱き、アジアの人々を中心に置いた研究を目指してきました。さらに教育者として、「学生には、自分たちに遺された歴史を取り戻す力をつけさせたい。そうすれば、自分のアイデンティティだけでなく、将来性をも取り戻すことに繋がる」と語りました。

 終盤では、グローバルな相互依存関係が続く現代に再び目を向け、「無関心によって負った傷は深い。その傷を唯一癒やすのは思いやりなのです」と訴えました。平和の重要性を知る日本人に期待を寄せ、一人の小さな行動がいかに大きな力をもたらすのか熱く語りました。そして、「想像力を活かして、勇気をもって行動し、豊かな世界を後世に残していきましょう」と呼びかけました。最後に、米国の詩人アマンダ・ゴーマン氏の詩を引用し、講演を締めくくりました。

 『光はいつもそこにある。私たちがその光を見つめ、そしてその光になる勇気さえあれば。』と。

第二部 対談

移民・難民の現状を理解することから始めよう

 第2部では、対談者に田村慶子氏を迎え、現在の移民・難民問題への取り組みについて意見が交わされました。

 はじめに、田村氏が日本の移民・難民の現状について、データを示しながら説明しました。難民認定数が少ない要因として、認定基準や国民の関心度を挙げました。これに対し、ウム氏は「先進国以外からの難民に対して、恐怖や抵抗もあるのではないか」と応えました。

 ウム氏は米国で、難民同士が助け合う組織を一から築き上げ、大学では教育を通じた支援に力を注いできました。「さまざまな学部で学んだ学生たちは、社会で活躍の場を広げ、その素晴らしい経験を共有してくれる」と笑顔で語りました。

 「移民・難民問題は数世代にわたり、世代間のギャップを埋め、“沈黙”を克服するのは容易ではない」とするウム氏は、辛い過去を振り返る痛み、その痛みを次の世代には伝えたくないという当事者らの思いに、寄り添ってきました。

 日本人として移民・難民問題に対してできることはあるかという会場からの質問に、ウム氏は「情報を共有し、現状を理解することが重要だ」と答えました。最後にウム氏から「一人ひとりの声がこだまのように響き合い、世界に通じる大きな声になる」と、温かいメッセージが送られました。

対談者 田村 慶子氏
コーディネーター 竹中 千春氏
対談の様子