贈賞理由

トー・カウン氏はミャンマーを中心とするアジア図書館学とりわけ古文献保存学の泰斗であり、約1,000年におよぶ種々の貝葉写本(ばいようしゃほん/ヤシの葉で作られた古文献)などの保存に努めると同時に広くそれを閲覧に供し、ミャンマー人がそれらの資・史料を用いて自国語で自国研究ができる体制づくりに貢献した。同氏は古文献保存功労者であり、図書館学においてアジアを代表する先駆者の一人である。

トー・カウン氏は健康問題を抱えながらも勉学に勤しんで進学し、ヤンゴン大学では英語学と文学を専攻、首席で卒業した。その後、ロンドン大学にて図書館学の学位を取得、英国図書館協会認定司書となり、同協会の正会員候補に推挙された。

帰国後、1969年にトー・カウン氏はヤンゴン大学中央図書館長に就任し、地道な司書教育と貝葉写本などの保存に取り組んできた。自らミャンマー語で司書の入門・貴重書取り扱いについての教材を執筆し、また、これまで虫食いと乾燥破損の危機に直面していた貴重な仏教経典などの貝葉写本を約16,000束も収集し、そのために図書館内に特別の空調設備のある保存室を造った。同図書館には19世紀以前にさかのぼる世界で初めての貝葉写本の複製本が所蔵されている。特にそれら写本類は、仏教経典註釈本としてロンドンのパーリ語仏典協会から英訳付きで順次刊行され、広く活用に供されている。

さらにトー・カウン氏は1971年にはヤンゴン大学に図書館学部を設立し、本格的な専門の司書の養成に努め、図書館学の大学院設立に大きな役割を果たした。これまでに、図書館学関係の著書の執筆に加え、ミャンマーの伝統文化と古文献保存について様々な著書や研究論文をミャンマー語と英語で発表し、啓蒙活動にも尽力。国内ではミャンマー図書館協会や伝統写本保存委員会の設立に大きな役割を果たす一方で、1984年および1991年には英国図書館、1989年にはシンガポールの国立東南アジア研究所の顧問司書などを務め、近年はミャンマー・タイの研究者とともにタイのチェンマイについてミャンマー語で書かれた貝葉写本の英語翻訳にあたるなど、国際的にも活躍している。

このようにトー・カウン氏はミャンマーをはじめアジア各国の貴重な古文献である貝葉写本などの保存と活用に大きな貢献を成し遂げ、その成果として自国語による歴史研究の道を拓いたばかりでなく、早くから貝葉写本の保存の意義をアジアそして世界に広く提示したことが高く評価できる。まさしく「福岡アジア文化賞-学術研究賞」にふさわしい。