2016年(第27回)福岡アジア文化賞授賞式
開催日時
2016年9月16日(金)/18:30~20:00(開場/17:30)
会場等
アクロス福岡1階 福岡シンフォニーホール(福岡市中央区天神)(外部リンク)

秋篠宮同妃両殿下ご臨席のもと、インド、パキスタン、フィリピン、ベトナムなど各国の来賓や各界関係者、市民など約1,100名の観客が見守る中、市民が贈る福岡アジア文化賞にふさわしく、受賞者は客席を通ってステージへ。手を伸ばせば届くほど受賞者と観客との距離が近く、華やかさの中にも温もりのあるその雰囲気は、ホスピタリティマインドあふれた福岡らしいオープニングとなりました。

最初に高島宗一郎福岡市長が挨拶。この賞は、アジアの学問や芸術・文化に光をあてる国際的な賞として大変貴重であり、100名を超える受賞者からアジアを理解するための示唆を得ると同時にアジア地域の人々の交流に大きく貢献していると紹介。文化の振興、相互理解及び平和への貢献とい う、福岡アジア文化賞の精神が浸透していくことを祈念すると結びました。

続いて秋篠宮殿下より受賞者へのお祝いの言葉を賜り、審査委員長の久保千春九州大学総長より選考経過が報告されました。大学院生からお祝いの言葉、福岡インターナショナルスクールの子どもたちから花束が贈られると、緊張気味だった受賞者の顔に笑みがこぼれ、観客からも大きな拍手が送られました。

第2部は受賞者による喜びのスピーチが行われました。また、事前に市民から寄せられた質問をもとにインタビューが行われました。そして、A.R.ラフマーン氏と福岡西陵高校管弦楽部との夢の共演が実現。受賞者も観客もラフマーン氏の音楽の世界に酔いしれる、今まで以上に華やかな授賞式となりました。

賞状と賞牌の授与
受賞者インタビュー
西稜高校とのコラボ演奏

秋篠宮殿下のお言葉

本日、第27回福岡アジア文化賞の授賞式が開催されるにあたり、受賞される3名の方々に心からお祝いを申し上げます。 近年、国際社会におけるグローバル化が進展する中、多くの国や地域では、画一化された思考方法や利便性を求めた生活様式が広まってきております。しかし、そのいっぽうでは、 固有の文化や伝統などを継承しつつ、新しい文化の創造にも 多くの力を注いでおります。

また、アジアには多様な風土や自然環境が創り出し、長い期間にわたって育まれてきた各地固有の歴史や言語、民俗など、文化の深さや豊かさがあり、それらを保存し継承していくことの大切さを強く感じます。

このようななか、古くからアジアの各地で受け継がれている多様な文化や芸術を尊重し、その保存と継承に貢献するとともに、新たな文化・芸術の創造、そしてアジアに関わる学術研究に寄与することを目的とした福岡アジア文化賞は、それらに功績のあった方々を顕彰する大変意義深い事業であると言えましょう。

本日受賞される方々の優れた業績は、アジアにおける未来の発展に貢献するものであることは勿論のこと、それとともに、アジアのみならず、広く世界に向けてその意義を示すものでもあります。そして、社会全体でこれらを共有し、次の世代へと引き継いでいくことは、私たちにとっての貴重な財産になるものと考えます。

終わりに、受賞される皆様に改めて祝意を表しますとともに、この福岡アジア文化賞を通じて、アジア諸地域に対する理解、そして国際社会の平和と友好が一層促進されていくことを祈念し、私のあいさつといたします。

大賞受賞者によるスピーチ

大賞受賞者によるスピーチの写真

秋篠宮同妃両殿下、福岡市長、 福岡アジア文化賞委員会、大使、 福岡の皆様、ありがとうございます。 私は、若い時に父を亡くし、日本製のキーボードを使って音楽で生計を立ててきました。それがこのように日本で表彰されることになるとは、思いもしませんでした。

インドは、ガンジーたちのおかげで民主主義を標榜し、彼らの足跡を追い、そしてまた日本からもたくさんのことを学びました。

日本は大災害に苛まれ、それを乗り越えられた経験は世界の人々の教訓となっています。私たちは対 立が起こっても、未来のために立ち上がらなくてはなりません。日本がそのことを私たちに教えてくれまし た。これは非常に大きな教訓です。地震が起こった後、あたかも何も起こらなかったかのように、皆さんは前に進んでいきました。その姿から私たちは学ぶことが多いと思い ました。

日本から素晴らしいインスピレーションを得ることができ、またこのような賞をいただき、ありがとうございます。

母国インドに対してもお礼を申し上げます。私に音楽を教えてくれた先生や私の両親、そして娘にも。皆さん、本当にありがとうございました。

学術研究賞受賞者によるスピーチ

学術研究賞受賞者によるスピーチの写真

受賞に対し大きな喜びを感じる一方、この賞に恥じない卓越性を継続できるかという不安が押し寄せてい ます。

歴史学とは、ぼろぼろの文書、埃をかぶった書物、壊れた遺物のわずかな痕跡をつなぎ合わせ「過去」という一つの絵を見ていく作業です。歴史学者は修道士に似て孤独です。自己不信に陥り、私の仕事は理解してもらえるのか、過去についての研究は現在に意味をなすのかと自問もします。この受賞により今までの苦労が無駄ではなかったと思うことができ、心より感謝申し上げます。

私の研究は、19世紀後半のフィリピンにおける芸術、文化、建国に関わった男女に焦点をあてたものです。私は、グローバル化する世界の中で祖国の人、とりわけ若い人が国民としてのアイデンティティーを見いだす後押しをしたいと思っています。

私が学術誌に執筆しないのは、一般の人を巻き込むべきだと考えたからです。時には学問を象牙の塔から引き出し、人々の手に戻さなければなりません。歴史は授業後すぐ忘れていいものではありません。歴史は過去をもとに現在を理解し、不確かで未知の未来に向き合うための一つの手段になります。歴史学者の仕事は、人々が過去にとらわれすぎず、過去の記憶とともに未来へ進んでいくようにすることです。

この賞は、私と私の仕事だけでな く祖国と国民、私の家族、友人、恩師、同僚、読者、そして私に否定的だった人たちを称えるものです。彼らの批判があったからこそ、私は良き歴史学者、執筆者、人間になれました。彼らとこの賞を分かち合いたいと思います。本当にありがとうございました。

芸術・文化賞受賞者によるスピーチ

芸術・文化賞受賞者によるスピーチの写真

秋篠宮同妃両殿下、大使閣下、ご来賓の皆様、芸術・文化賞を受賞し大変光栄に思います。

文化こそが、我々にアイデンティティーを与え、社会の結び付きを強め、持続的な成長を支えるものです。

モヘンジョダロ、マクリの墳墓群やラホールの城塞、タッター、ペシャワールなどの城塞都市、パキスタンにはたくさんの素晴らしい文化遺産があります。

また、パキスタンでは、土地固有の伝統、工芸の技能が母から娘へ伝えられています。これは、次世代のために寛容と平和の文化を永続させる知恵だと私が信じるものです。

紛争と大災害に満ちた世界で、今日私は、母国の偉大な人道主義者や、ノーベル賞受賞者であるマララ・ユスフザイとアブドゥッサラーム博士らにならい、またパキスタン建国の父であるムハンマド・アリー・ジンナーのビジョンのもと、人生を人類のために捧げております。

この栄誉は、裏返せば地球温暖化やパキスタンと日本が苛まれている災害の脅威を浮き彫りにします。災害に備える知識を日本からパキスタンへ広げ、さらにパキスタンが推進する環境に優しい仕組みを世界中に広めていかなければなりません。

福岡アジア文化賞委員会の皆様にはこの素晴らしい賞を授与くださったこと、祖国パキスタンには、環境に優しい社会の実現にむけて持続可能なモデルをつくり、コミュニティと共に働く機会を与えてくださったことに感謝します。また、両親、夫、子どもにも、その生涯にわたるサポートに深く感謝します。最後に、私の呼びかけに応じ、苦難に立ち向かいながらも、並外れた創造力と勇気を見せてくれた、数多くの虐げられたパキスタン女性に多大な敬意を表したいと思います。

受賞者インタビュー

---まずは、A.R.ラフマーン氏への質問です。どのような時に詞や曲が浮かびますか?
ラフマーン氏:良いストーリーや良い人に出会った時に浮かびます。また自然や、スピリチュアルなものからもインスピレーションを得ます。飛行機に乗っている時や電話をかけている時にふと思いついて、いきなり歌いだしたりもするんですよ。
 
------曲づくりで苦労した経験はありますか?
ラフマーン氏:例えば自分の心は沈んでいるのに幸せな気持ちになる作品を作らなければいけない時があります。そのような時は、自分の心をだましながら作らなければなりません。「来週 まで」と締切を言われても、自分の気持 ちがそういう状態にない時があります。しかし、プロとして、イライラしても悲しくても作品に集中しなくてなりま せん。心のありようを変えなければな らない。それが一番大変です。しかし、 ほとんどの場合、うまくいきます。
 
---次にオカンポ氏へ質問です。歴史学者を志したきっかけは何ですか?
オカンポ氏:教師の教え方やテキストが気にいらず、自分が教師になろうと思いました。歴史は現在が過去と関係 していることを示すものでなければなりません。
 
---フィリピンと日本の関係をどのように感じていますか?
オカンポ氏:先の大戦では両国が多くの犠牲を払い、この恐ろしい体験を経て両国の関係は前へ進みました。1960年代には複雑な思いを持ちながらも友情関係を築き、これこそ未来に続く財産になります。
 
--民間交流を推進するために必要 なものは何でしょうか?
オカンポ氏:人々が互いを身近に感じることが大切です。それには文化、音楽、歴史が重要な役目を果たします。こ れらを通して各国の心に触れることができ、両国の距離は縮まって、互いがより良い友人になれると考えます。
 
---それでは、ラスミーン・ラリ氏への質問です。女性の社会進出に対して、どう思いますか?
ラリ氏:私の時代は困難を感じることもありましたが、今は女性が挑戦でき ない分野はなく、世界は変わりました。 良いことです。
 
---2005年のパキスタン大地震を機に支援活動を行っていらっしゃいます。人々の安全のために重視していることは何ですか?
ラリ氏:災害は生命や財産を奪います。それを防止するには石灰や竹で二酸化炭素を排出しない強固な建物を造ることです。 私は安価で安全な建物を造っています。
 
---2005年のパキスタン大地震を機に支援活動を行っていらっしゃいます。人々の安全のために重視していることは何ですか?
ラリ氏:災害に対し、女性が意識されていないのは問題です。災害の備えとして大事なことは、皆が動けるようになること。自分や家族の命を自分たちが救うという意識、権限を男性に限らず女性も持つことです。女性が自助、自立を学ぶことが必要です。
インタビューの風景

特別披露 A.R.ラフマーン氏と福岡西陵高校管弦楽部との共演

最後は、A.R.ラフマーン氏と福岡西陵高校管弦楽部による夢の共演が行われました。

【出演】
ヴォーカル&ピアノ:A.R.ラフマーン
ヴォーカル:ジョニータ・ガンディー
シタール:アサッド・カーン
指揮:リカルド・アベルバール

【曲目】
「Bombay theme(ボンベイ・テーマ)」(映画『ボンベイ』より)
「Oruvan Oruvan(オルバン・オルバン~主はただ一人)』(映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』より)
「Mausam & Escape(モーサム&エスケープ)」(映画『スラムドッグ$ミリオネア』より)
「Jai Ho(ジャイホー)」(映画『スラムドッグ$ミリオネア』より)

2016年(第27回)福岡アジア文化賞祝賀会

授賞式に引き続いて各国の来賓、各界関係者など多数の参加者を得て祝賀会を開催。

礒山誠二福岡よかトピア国際交流財団理事長が「本日も新しい出会いが生まれ、長くご縁が続いていくことを願っています。」と開会を宣言。続いて駐日インド大使のスジャン・R.チノイ氏による来賓あいさつ、駐日パキ スタン大使のファルーク・アーミル氏による乾杯で祝宴がスタートし、各受賞者と同伴者を囲んでにぎやかな談笑が広がりました。最後はこの日誕生日だったラフマーン氏のご令嬢、ラヒーマ氏にサプライズ演出でバースデーケーキとプレゼントが贈られ、参加者全員で祝福しました。

拍手で祝福されるラフマーン氏
笑顔のオカンポ氏
関係者と談笑するラリ氏