チャン・リュル from / to FUKUOKA-作家とまちの縁(えにし)
開催日時
2023年9月13日(水)18:30~21:30
会場等
中洲大洋映画劇場
コーディネーター
石坂 健治氏(日本映画大学教授・映画学部長)

第一部 映画上映

映画『福岡』

 国籍・国境を越えた比類なき「東アジア映画」を創り続けている張氏。第1部では、張氏が監督を務め、福岡ロケで撮影された『福岡』(2019年/韓国・日本・中国/86分)を上映。会場となった中洲大洋映画劇場の周辺や、見慣れた福岡のまちがスクリーンに数多く登場し、観客は親しみを感じながら映画を鑑賞しました。

第二部 対談

生活の質感がある空間で、まちと人を描き出す

 映画鑑賞をした観客に向けて、張氏から感謝の言葉が述べられた後、コーディネーターの石坂氏より張氏と福岡との縁が紹介されました。「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」の参加をきっかけに2007年からほぼ毎年福岡に訪れるようになった張氏。映画祭では、これまでに7本の作品が上映されました。また、福岡との交流が深まる中でアイデアが膨らみ、福岡三部作が誕生。制作過程で多くの市民や県民が関わり、映画を通して交流を深めてきました。

 対談では、映画『福岡』の特徴的な描写をもとに石坂氏が質問を投げかけ、張氏の人生観や世界観に迫っていきました。登場人物について、「酔っ払い男とシャッキリ女」という男女の違いが際立っている点を伝えると、頷いていた張氏。「男性たちは強い責任感を持って働いており、お酒を飲むと解放されて変わる様子がおもしろい。自分もその中の一人だ。女性たちは勇敢に前に進んでいく人が多い。私の家族でも、母や姉のほうがしっかりしている」と、自身の経験を交えて応えました。

 東アジア映画というジャンルを確立し、国境を越えた世界観を表現している張氏。異なる言語が自然に通じ合う演出について、「言葉はコミュニケーションの手段。力を持つ国の言語だけが使われるのではなく、それぞれ自分の美しい言語を話し、障害なく通じ合えることが私の理想。そのビジョンを映画の中で実現した」と、思いを語りました。

 また、石坂氏が「監督の映画では、存在と不在、わかりそうでわからない、そのちょうど間ぐらいを描いている。これについて、どのようにお考えですか」と質問。張氏は「目に見えるものと見えないものが二分されるのではなく、その間にたくさんの接点がある」と応え、亡くなった家族や思い出の場所など、記憶の中に多くのものが存在している考えを表しました。現実と幻想(ファンタジー)を織り交ぜた演出に関しても、頭の中では誰もが様々なことを思い浮かべている例を出して説明し、「現実が3分の1、幻想は3分の2というのが、生活の質感だと思う」と、独自の視点を表現しました。

 そして、作品の随所に登場する尹東柱(ユン・ドンジュ)の詩が、現実と幻想の橋渡しとなっていることに触れ、詩の独特なリズム感によって幻想に導く手法を明かしました。尹東柱は張氏と同郷の詩人。母国語の朝鮮語を大事にした生き方に対して、張氏は尊敬の念を示しました。参加者からの質問で映画にBGMを使っていない理由を聞かれると、できる限り音楽によって情緒的に誘導する方法は用いない考えを示しました。

 ロケ地の選定にあたっては、有名な観光地ではなく生活空間を重視。「一般の人たちの感情や習慣が感じられる空間を選んでいる。生活の質感がある場所は、観客の皆さんが見たときに化学反応を起こしやすいと思っている」と話しました。

 最後に、再び福岡で映画を撮影する意思を示した張氏に、会場から大きな拍手が送られました。福岡との縁がこれからも続くことを願い、劇場でのフォーラムは幕を閉じました。

 

対談の様子
コーディネーター 石坂 健治氏
会場の様子