2021年(第31回)大賞受賞者 パラグミ・サイナート氏  歴代受賞者学術交流事業
開催日時
2023年10月21日(土)13:00~15:00
会場等
JR博多シティ10F 大会議室
主催
九州大学アジア・オセアニア研究教育機構、福岡市、(公財)福岡よかトピア国際交流財団

講演会

Do we need a new journalism in the era of corporate media? (企業メディアの時代に新しいジャーナリズムは必要か)

 サイナート氏は、グローバリゼーションの中で急激に変動するインドで、「農民の物語」を伝え続けている気骨のジャーナリスト。2014年にデジタル・ジャーナリズムのプラットフォーム「People’s Archive of Rural India(農村インド民衆文書館)」を立ち上げ、農村社会の現状を収集し、多言語で発信する独自の取り組みを続けています。

 この日の講演は「正義」「不平等」「気候変動」の観点からジャーナリズムについて語られました。

 冒頭、サイナート氏は、「インターネットでは誰もが自由に声を上げられるといわれるが、実際はどうだろうか」と投げかけ、「大企業は、インターネットを支配し、利益のために使用するため、農民の困難を伝えることはない。メディアの正義は機能していないのではないか」と問題提起しました。例えば、インドでは、1990年代から深刻な農村危機が起こり、40万人以上が自殺しました。サイナート氏はこの問題と向き合い、900世帯以上の農家を取材。しかし、インドの大手新聞社のひとつがこの農村の苦悩を取り上げるまで7年の年月がかかり、その間もサイナート氏は記事を書き続けていたそうです。

 そして、「コロナは、社会の不平等を白日にさらした」とパンデミックを振り返りました。コロナ禍においてインドでは、都市部で働いている農村出身者が帰郷を希望しても政府は彼らを留めようとしたこと、医療・製薬業界が莫大な財産を築き、人口の1%でしかない億万長者がGDPの約半分を占めるようになったこと、これまで学校から女子生徒に無償で配布されていた清潔な生理用品がロックダウンのために入手できなくなったこと、オンライン教育が進む一方で、それを受けられない子どももいること、住む州や地区によってインターネット使用格差が生じていること等を語りました。

 さらに、気候変動について、「私たちは状況の深刻さを学ばなければならない。このままでは漏水している水道の蛇口を閉めないままでいるのと同じだ」と訴え、海の中に沈んだ村、かつて穀倉地帯だった大地の砂漠化など、氏が撮影した画像を映しながら解説しました。水や食物を求めて野生動物が人里に出没している現象にも触れ、新たな感染症を防ぐ観点からも自然環境保護の重要性を伝えました。

 「今、地球で何が起こっているのか。農業や漁業をしている人と話せば見えてくる。普通の人々の姿を語る民衆のメディアが必要だ」と語るサイナート氏。「企業よりコミュニティ、利益より人に焦点を当てることが、本来ジャーナリズムが追求すべきこと。私たちが行動し、変えていかなければならない」と、力強く発信しました。