贈賞理由

チャーンウィット・カセートシリ氏は、タイおよび東南アジアを代表する歴史学者である。氏はタイの歴史とりわけアユタヤ史の研究において傑出した業績をあげたほか、タイ近現代史の研究にも大きな成果をあげ、それらの成果を教育に取り入れ、活発な啓蒙活動を行い、国際的に高く評価されている。

チャーンウィット氏はタイのタマサート大学政治学部を卒業後、1972年にアメリカのコーネル大学で博士号を取得。1973年にタマサート大学に奉職。以来教授、教養学部長、学長として、激務にありながら多くの研究業績をあげ、その成果を教育の場に活かすこと、タイ社会へ発信することに積極的に取り組んできた。なかでも、タマサート大学教養学部にタイで最初の東南アジア学の講座を設立した意義は大きい。また、人文社会科学教科書振興財団の事務局長として、タイの教育界や学界に優れた教科書や専門書を生み出すことに貢献してきた。さらに、京都大学、カリフォルニア大学、コーネル大学、ハワイ大学等に招聘され、研究者として国際的に活躍している。

チャーンウィット氏の研究はアユタヤ史を中心として、タイ近現代史にまで及んでいる。アユタヤ史の研究では『アユタヤの興隆―14~15世紀のシャムの歴史』、『アユタヤ―歴史と政治』などの著書において、広く東南アジア史のなかに国際都市アユタヤを位置づける新しい歴史像を提示した。それは、従来のタイ歴史学界で主流であった王朝史を乗り越え、以後のアユタヤ史研究の新境地を切り拓いた。その他にもアユタヤ史に関する多くの著作を発表している。これらの成果をもとにタイの学者を結集して執筆・編集された『アユタヤ』は日本語、英語にも翻訳され、多くの人々に読まれている。近現代史研究においても『タイ政治史:1932~1957』をはじめとする著作により多大な貢献をなしてきた。また、現代タイの社会問題に対しても積極的に発言を続けるなど、社会的影響力のある学者として高名である。

このようにチャーンウィット・カセートシリ氏は、アユタヤ史だけでなく、東南アジア全体の歴史研究および近現代タイの歴史や政治・経済・社会の研究にも多大な成果をあげてきた。また、その成果を教育において普及させる活動を展開し、タイ史研究者どうしの国際的連携にも尽力してきた。その貢献は、まさに「福岡アジア文化賞―学術研究賞」にふさわしい。

家族とともに(1954年氏13歳の頃)
1ヶ月間仏教僧に(1976年、35歳の頃)
古都アユタヤ遺跡にて学生達へ講義する氏(1980年代前半)