贈賞理由

毛里和子氏は政治学者で、日本における現代中国研究の第一人者である。氏の学問的業績は中国政治、中国国際関係史、中国の民族問題の3分野にわたり、それらを有機的に統合することによって現代中国の全体像を描き、アジア地域研究の共通基盤となる方法的枠組みの構築にも大きな貢献をなした。

毛里氏は1940年東京都に生まれ、1962年お茶の水女子大学文教育学部史学科(東洋史専攻)を卒業した。その後、先駆的な女性研究者として、次々と質の高い研究論文を発表した。日本国際問題研究所主任研究員、在上海日本国総領事館初代専門調査員、静岡県立大学、横浜市立大学を経て、1999年4月から2010年3月まで早稲田大学政治経済学部・大学院政治学研究科教授として、地域研究、中国政治と外交、東アジアの国際関係にかかわる研究と教育を担当してきた。

毛里氏の代表作『現代中国政治』は、社会主義、発展途上国、伝統の三つの視座から党・国家・軍の機能と関係を比較政治学の手法で分析しており、その内容は日本の中国研究の最高水準を示すものと評価された。また『周縁からの中国-民族問題と国家』は、1940年代から現在にいたる中国の国家統合・国民形成のプロセスでウイグル人など辺境の民の歴史を政治学と国際関係論の立場から分析した体系的研究で、国際政治の中での中国のもうひとつの姿を立体的に浮かび上がらせることに成功したと評価された。さらに2007年の『日中関係-戦後から新時代へ』は、相互依存と相互不信が 複雑に絡まる現代の日中関係を過去にさかのぼって実証的に整理し直し、今後のあるべき関係を説得的に提示した。

毛里氏は研究者としての傑出した業績だけでなく、中国研究とアジア地域研究の組織化、国際学術交流の分野でも大きな功績を残した。特に文部省科研費重点領域研究「現代中国の構造変動」(1996-98年度)では、代表者として70人を超える中国研究者の共同研究を推進し、その成果を『現代中国の構造変動』全8巻として刊行した。また文部科学省21世紀COE「現代アジア学の構築」プロジェクト(2002-06年度)の拠点リーダーとして、日本のアジア地域研究のレベルアップのために精力的に活躍してきた。このように、学術界の発展に大いに寄与し、その功績はまことに顕著であり、まさに「福岡アジア文化賞―学術研究賞」にふさわしい。

北京宛平県蘆溝橋にて(2006年)
北京大学国際関係学院と早稲田毛里ゼミ交流会(2008年)
社会紛争、宗教紛争の専門家である于建嶸氏と(2008年)