贈賞理由

タウフィック・アブドゥラ氏は、インドネシアのすぐれた歴史学者であり、同国を代表する第一級の国際的知識人である。

現在、インドネシア科学院社会文化研究所の上級研究員である同氏は、ジョグジャカルタのガジャマダ大学を卒業後、インドネシア研究で名高い米国コーネル大学で、郷里西スマトラにおけるイスラム改革運動の研究を取り上げ、博士号を取得した。この研究によって、柔軟な思考法と独創的な研究視角を評価された同氏は、帰国後、つねに真摯な研究倫理を貫きながら、倦むことなく学術的な論文・著書を発表してきた。それらは、インドネシア地方史、知識人論、イスラム論、開発問題論等、いずれも世界最大の群島国家インドネシアの歴史的現実と切り結ぶものであり、国際的にもインドネシアにタウフィックありという評価をかち得てきた。中でも、地域社会それ自身の内発的な力に視座をすえた地方史の方法論を確立するとともに、東南アジアのイスラム研究に新局面を開いたことは、インドネシアのみならず東南アジア歴史学の発展に多大の貢献をなすものであった。その方法は、インドネシアを国民国家、地方史、イスラムの三つのベクトルから解明しようとする意欲的な研究枠組みに基づいており、それは、今まさに形成されつつある東南アジア研究のフロンティアを切り開く業績として注目されてきた。

同氏はまた、若くしてインドネシア科学院社会経済研究所所長の要職を務めたほか、国内最大の社会科学学会や、東南アジア社会科学協会の設立に尽力し、東南アジア全体の社会科学水準の向上と後進の育成に大きく貢献してきた。さらに、東南アジアにおける活動に加えて、米国、オランダ、オーストラリア、日本等の研究機関との学術交流を積極的に推進し、各種の共同研究を実現した。これらの学術活動は、一人の歴史学者であるとともに、20世紀の東南アジアの知識人としての知的誠実さに裏打ちされていて、国際的にも幅の広い共感を呼び、まさに、現在から未来へと向かう東南アジア理解のために、東南アジアはもとより、広く海外において大きく寄与するものであった。

このように、タウフィック・アブドゥラ氏の学術研究における輝かしい功績は、人々のアジアに対する理解に大きく貢献をなしたと評価できるものであり、まさしく、「福岡アジア文化賞学術研究賞・国際部門」に相応しい業績といえる。