贈賞理由

ヴァンダナ・シヴァ氏は、自然を慈しみ、生命の尊厳を守る斬新な思想を語り、多くの民衆を導いてきたインドの環境哲学者である。とくに、貧しい人々や女性の視点に立って、開発やグローバリゼーションのもたらす矛盾を鋭く指摘してきた。

シヴァ氏は、1952年インド北部のデーラ・ドゥーン市に生まれ、カナダのゲルフ大学で科学哲学の修士号、ウェスタン・オンタリオ大学で量子理論を研究し、物理学の博士号を取得した。第一線の科学者としての研鑽を基礎に、自然と人間の接点を模索するため、帰国後、1982年に科学・技術・自然資源政策研究財団を設立した。   

1980年前後のインドは変革の波に洗われ、新しい民衆運動が続々と登場していた。故郷の山村では、女性たちが開発業者から森を守る戦いを繰り広げていた。ヒマラヤ山麓で樹木の伐採を阻止するために、樹木に「抱きつく(chipko)」という非暴力的な闘争を進めた、チプコ運動はその一つである。シヴァ氏は、この草の根の運動を世界に知らしめ、支援を呼びかけると同時に、エコロジーとフェミニズムを結び付ける「エコフェミニズム」という新しい思想と運動の領域を切り開いた。

1990年代になると、シヴァ氏は、グローバルな市場経済の影響で急速に変えられていく農民の暮らしをどう守るか、という課題に取り組み始めた。1991年にNGO団体ナヴダニヤを発足させ、伝統的な種子の保存、有機農業、フェアトレードなどの活動に着手し、2001年には持続可能な生活をテーマとする国際大学を設立している。これらの活動の中核に「アース・デモクラシー(大地の民主主義)」という思想があり、平和・公正・持続可能性という価値を追求する運動として、特殊なものと普遍的なもの、多様なものと共通のもの、ローカルなものとグローバルなものを結びつけ、地球に暮らす生き物の共同体、つまり「大地の家族」を守ろうと人々に呼びかけている。

この思想を書き表した『アース・デモクラシー―地球と生命の多様性に根ざした民主主義』のほか、シヴァ氏の著作は多い。『緑の革命とその暴力』『生物多様性の危機―精神のモノカルチャー』『生きる歓び―イデオロギーとしての近代科学批判』など邦訳も少なくない。1993年には「もう一つのノーベル平和賞」として知られるライト・ライブリフッド賞も受賞した。

独自の思想を力強く語り、草の根の民衆を巻き込んで社会的な運動を進めてきたヴァンダナ・シヴァ氏は、まさに「福岡アジア文化賞-大賞」にふさわしい。

インド、バンガロールにて(1979年、カナダから帰国後)
ナヴダニヤ農場での農民とのセッション(2007年、カナダ人活動家パーシー・シュマイザー氏とともに)
ジャイラム・ラメッシュ環境森林担当大臣と(2009年、ナヴダニヤ農場にて)