贈賞理由

フォリダ・パルビーン氏は、ベンガル地方の伝統的な宗教歌謡バウル・ソングに新たな生命力を吹き込んで、現代に蘇生させるとともに、テレビや映画をはじめ、国際的にも活躍しているバングラデシュを代表する歌手である。

フォリダ氏は、1954年に現バングラデシュ西部のナトールに生まれ、クシュティアで育ち、幼時よりインド音楽の基礎を学んだ。6歳から著名な音楽家ウシュタド・イブラヒムに師事して古典音楽を研鑽し、13歳の時からラジシャヒのラジオ局の歌手として活動を始めた。ベンガル地方では、古くから神と人の合一を説く教えが人々の生活に深く影響を与えており、その修行者であり、教えを歌って各地を流浪する吟遊詩人とも称されるバウルたちが活躍していた。その中でも、18~19世紀における最高のバウルとされ、タゴールにも大きな影響を与えたラロン・フォキルが拠点としたクシュティアでは、ラロンを讃える祭りが毎年催されており、ここで歌われるラロン・ソングとの出会いによって、フォリダ氏はラロンの数多くの歌の収集や分類を始め、歌手としての活動を発展させていった。

また、ラジシャヒ大学でベンガル文学を学ぶ傍ら、ラロン・ソング以外にも愛国歌、独立戦争などの歌を歌い、全国的な人気歌手としての地歩を築いてきた。LPレコードの出版をはじめテレビ・映画の歌手として活躍し、1987年にはエクシェイ・パドック賞(バングラデシュにおいて民間人に対し贈られる最高賞の一つ)を受賞し、1993年には、バングラデシュ国民映画賞の女性歌手(プレイバックシンガー)部門最優秀賞を受賞するなど、バングラデシュを代表する歌手として高い評価を得ている。さらには2002年の日本公演をはじめ、フランス、アメリカなど、国際的にも活動を広げ、バウル・ソングを世界に紹介している。

フォリダ氏は、インド古典音楽を基礎にしながら、豊かな歌唱力によってバングラデシュの伝統的な宗教歌謡バウル・ソングの芸術的評価を高め、ユネスコの無形遺産のなかの世界遺産認定に導くなど、その価値の向上と国際的な普及に対する功績は大きく、まさに「福岡アジア文化賞―芸術・文化賞」にふさわしい。