贈賞理由
ディック・リー氏は、アジアを代表するシンガーソングライターであり、現代においてもっとも活力あるアジア・ポピュラー音楽の旗手として国際的にも高く評価されている。
本名はリチャード・リー(李迪文/リーペンブン)。5歳よりクラシックピアノを学び始め、マレーシア、インドネシア、中国などアジア諸地域、イギリスをはじめとする欧米の文化など複雑に融合するシンガポールの文化的背景の中で、幅広い音楽的視野を身につけている実力派である。
中国系の家系でありながら中国語が話せず英語を話すという現実を背負い、自己のアイデンティティを追求しつづける中で、ディック・リー氏の音楽は開花していった。また、英語のシンガポール訛りとも言うべき「シングリッシュ」に愛着を持ち、自作の曲に使用してその再認識を深めるなど、自らの文化を主張する姿勢は、東南アジアのみならずアジア全体に根ざす音楽の発展を意図する活動として非常に貴重である。
1974年、17歳で、デビューアルバム『ライフ・ストーリー』を発表。オリジナル曲ばかりの英語のアルバムとしてはシンガポール初であった。その後も、外国の歌の模倣が主流という同国の状況の中、自作のオリジナルな音楽を発表しつづける。
90年にアルバム『マッド・チャイナマン』で日本にデビューし、大ヒットを記録する。つづく『エイジア・メイジア』『オリエンタリズム』などの作品でアジア・ポップスのトップとしての地位を確立するとともに、ミュージカル『ナガランド』では原作、作曲、主演もこなし、多才ぶりを発揮している。
そのほか、ファッションデザインの分野での活躍や他のアーティストおよび国内外の式典・イベントへの楽曲提供や演出など、アジアにおける幅広い活動を展開しており、今後の活躍がますます期待される。
シンガポールを軸に、アジアのポピュラー音楽の発展に大きく寄与しつづけるディック・リー氏は、自分を生み育んだアジアそのものを一貫して表現することにより、アジアのポピュラー音楽というジャンルを先導した。その功績はまさしく「福岡アジア文化賞―芸術・文化賞」にふさわしいといえる。