贈賞理由
石井米雄氏は、日本における東南アジア研究のパイオニアであり、世界的なタイ学者である。
東京に生まれた同氏は、若くしてタイ国のチュラーロンコーン大学に留学、外務省勤務を経て、1965年京都大学東南アジア研究センターに迎えられ、以来、わが国の東南アジア研究の発展に寄与してきた。90年に上智大学へ移って研究と教育の場はさらに広がり、国の内外で精力的に活動、本年9月には国際アジア歴史学者会議の会長として、その第13回大会を東京で開催する。
石井米雄氏は少年時代から卓越した語学の才能を示して、はじめ言語学者を志したが、恩師の勧めでタイ語を学び、それをきっかけとしてタイ国と東南アジアの研究を、ただ一筋に深め続けてきた。特に20歳台でタイへ渡り6年有余の研鑽を経て、タイの人々が目を見はるほどタイ語に習熟するとともに、その地の人々の宗教生活への深い愛着と、歴史、社会、文化への尊敬の念を抱くようになった。
自ら出家生活を経験し、タイ仏教の文献を精査して完成した『上座部仏教の政治社会学』は、国王と仏教をめぐる宗教社会学的研究の画期的成果として高く評価され、英語とマレーシア語にも翻訳された。今なお、タイ仏教に関する名著として、各国で広く読みつがれている。同氏の研究は、その後、古代法典や比較法制史の領域へと深まり、中でもバンコクで刊行された『三印法典総辞索引』全5巻は、コンピューターを駆使した精緻な業績として、タイの学界から高い評価を受けた。この他にも、東南アジアの歴史研究や日本とタイの関係史の分野で、歴史的洞察に裏付けられた成果を、精力的に発表してきた。
同氏は優れた研究者であるだけでなく、国際的学術研究の推進や、若い世代の東南アジア研究者の育成についても、際立った貢献をしてきた。同氏を中心として多くの国際的プロジェクトが成果を挙げ、優れた若手研究者が同氏の薫陶を得て育ってきた。深い学識と抜群の語学力と謙虚な人柄があいまって、アジアをはじめ欧米諸国の学界からも、深い信頼を得、日本の東南アジア研究の国際化に大きく寄与してきた。
このように、石井米雄氏の学問研究における優れた業績は、日本の東南アジア研究の発展に多大の貢献をなしたと評価できるものであり、まさしく「福岡アジア文化賞-学術研究賞・国内部門」に相応しい業績といえる。