贈賞理由

サヴィトリ・グナセーカラ氏は、スリランカを代表する法学者であるとともに、高等教育改革に取り組む優れた教育者でもある。さらに南アジアにおける家族法、女性と児童の人権擁護とその法制史などに関する学術的な貢献をなしつつ、国際連合の諸機関やNGOなどにおいて実践的に活動する社会運動家でもある。学術研究と人権擁護の双方にまたがる境界領域において、後進の研究者や実践的な活動家の養成に努めるかたわら、社会的弱者の権利を守る運動に取り組んでいる。

グナセーカラ氏は、1961年にセイロン大学(現ペラデニヤ大学)法学部を首席で卒業、法廷弁護士の資格を得る。1962年よりハーバード法科大学院に留学し、法学修士の学位を取得した。帰国後セイロン大学法学部の教員を経て、1977年から1982年までナイジェリアのアフマドゥ・ベロ大学法学部の講師として赴任する。その後、スリランカにおける通信制高等教育機関の設立に尽力し、成果として1983年に設立されたオープン・ユニヴァーシティの初代法学科長に就任、その後学部長、副学長代行を歴任する。そして、1999年にはスリランカで最も古い歴史を持つコロンボ大学の副学長(※1)に就任。スリランカ初の女性副学長であり、学界や専門職を志向する女性の希望ともなった。この間、国連大学をはじめ世界各地の研究機関にしばしば招聘されるとともに、ILO、UNICEFなど国際機関の活動に専門家として助言。また、スリランカの代表的なNGOである女性研究センター(CENWOR)の理事を務め、草の根レヴェルでの女性の地位向上運動も担ってきた。

グナセーカラ氏の主要な研究業績は、女性や児童の法的な地位や権利に関する分野であり、主著『児童、法律および正義:南アジアの視点から』(1998)は国内外で高い評価を受けている。同氏の社会的な活動は学術研究にとどまらず、植民地時代に制定された古い刑法が1995年に大幅に改正された際には、女性や子どもの権利擁護が実現されるよう尽力した。また、2004年のインド洋大津波に際しては、国連女性開発基金(UNIFEM)の資金援助により、沿海地方における被災女性の生活支援に力を尽くしている。

このように、南アジア、とくにスリランカにおける女性と児童の法的な権利に関する学術的な研究と、社会的な弱者を守る活動の両面において、国際的に高く評価されるグナセーカラ氏は、「福岡アジア文化賞―学術研究賞」の受賞者にふさわしい。

(※1)スリランカの大学では、大統領などが就任する名誉職的な学長(Chancellor)のもとに実質的な責任者として副学長(Vice Chancellor)が置かれるのが一般的である。