贈賞理由

ドアンドゥアン・ブンニャウォン氏は、ラオスの伝統文化、特に織物の振興と伝統技術の保存、ラオス文学の研究と普及に貢献するラオスを代表する文化人である。

知的環境に恵まれた家庭に生まれたブンニャウォン氏は、ラオスおよびフランスで高等教育を受け、帰国後、ラオス古典文学と伝統文化の研究に打ち込んだ。ラオス古典叙事詩「タオ・フン、タオ・チュアン」の研究に没頭し、そのなかに表現されたラオスの儀礼や伝統についての研究成果を出版し、高い評価を得た。

ラオス古典文学の研究を進める中から芽生えたラオスの伝統文化に対するブンニャウォン氏の関心は、文学だけにとどまらず、代表的な伝統文化の一つである織物の研究に向かった。ラオスでは、それぞれの家族ごとに特徴のある織物や衣装があるといわれるくらい織物の世界は多彩である。これらの織物に織り込まれたさまざまなモチーフの意味するものを研究することから、同氏の活動はラオス伝統織物の歴史研究のみならず、伝統織物の技術保存と継承の啓蒙活動、織物を織る女性の社会的地位の向上を目指す運動、織物の外国への紹介など、織物をめぐる幅広い活動へと発展してきた。

1990年に女性5人で「芸術とラオス織物を推進するグループ」を設立し、本格的に織物とその伝統技術の保存活動を開始した。1991年にユニセフの助成によりラオス女性同盟が実施した「ラオス織物の保存推進プロジェクト」のコンサルタントを務め、プロジェクトの一環として織物ギャラリー「シン・サイ・マイ」を設立した。同年チェンマイ大学で開催された「アジアの織物」会議にラオスを代表して出席し、さらには責任者としてデザインを指導した織物を出品して、ユネスコ・アジア工芸品賞を受けた。また、国内のみならずタイ、アメリカ、フランス、日本においても織物の展示会・ワークショップを行うなど、ラオス伝統織物の復興と発展のために積極的な活動を展開している。1995年に出版された『無限のデザイン-絹の芸術-』はラオス人が書いた初めてのラオス伝統織物の研究書として内外から高い評価を得た。さらに、日本の国際交流基金のプロジェクトにより織物の研究を推進し、その成果として2001年『織りの伝説』を出版した。

「ラオスの伝統織物はラオスの文化の根幹を成すもの。この伝統技術を守りたい」との強い決意に支えられた幅広い活動は、ラオスおよびアジアの伝統文化の保存、継承、発展に大きな貢献をしている。ブンニャウォン氏こそ「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。