贈賞理由

韓基彦氏は、現代韓国を代表する最も著名な教育学者で、教育史、教育学哲学、比較教育学、社会科教育学など、幅広い分野で活躍している。

1925年、ソウル市において、教育を重んじる家庭に生まれた同氏は、少年時代以来の優秀な成績を認められ、官立京城師範学校で8年間の一貫教育を受けた。1945年、同氏が20歳の時、国権が恢復されると、同氏は新しい国づくりを目指して、教育学者として身を立てることを決意し、ソウル大学校で教育学の研究を始めた。その結果、同氏は韓国で初めての教育学専攻の修士号及び博士号を獲得することになった。そして、1952年以来、1990年に定年退官するまで38年間の長きにわたって母校ソウル大学校で教育学を研究、教育し、多くの優れた研究業績を上げるとともに、数多くの優秀な教育学者を養成してきた。その一端は、今日、韓国教育学界の第一線で活躍している多くの教え子たちによって編纂、刊行された還暦・古希・定年記念論文集という韓国教育学における記録的な記念論文集三部作となって結集されたことを見ても理解できる。本年は、同氏が教育学研究に取りかかって、ちょうど50周年の節目に当たる。

韓氏の教育学理論は「基礎主義」(Foundationism)として広く内外に知られている。この考え方によれば、伝統と革新との調和を計り、これを通じて人間形成が行われるとされ、中庸と調和という点に重要な意味が含まれている。そこでは伝統を重視する英知と同時に、改革を恐れない勇気が尊ばれる。同氏は国際的視野を十分に踏まえた上で、韓国固有の教育学を定立することの重要性を指摘する。つまり、そこでは教育文化の国民的民族的個別性・土着性が確保されると共に、国際社会における普遍性が主張されているのが大きな特徴である。

同氏は、早くも1960年代の初期から国際理解の教育の重要さを主張し、これを自ら初代学会長を務める社会科教育学会において実践してきている。これは基礎主義の教育現場における実践であり、またユネスコ・アジア地域国際協同学校計画会議でも重責を担うなど、国際平和の実現に教育学者として最大限の役割を果たした。同氏の教育理論家、実践家としてのリーダーシップは、韓国教育学会長、基礎主義研究院長などの要職を通じて、遺憾なく発揮された。

このように、韓基彦氏が韓国の土壌に根ざしつつも、文化の伝承と発展を計る教育学を理論的に体系化し、早くからその普遍的意義を国際社会に訴え、また課題解決のため、教育実践を通して国際社会に大きく貢献してきたことは、まさしく「福岡アジア文化賞―学術研究賞・国際部門」にふさわしい業績であると評価する事ができる。