贈賞理由

三木稔氏は、日本のみならずアジアを代表する作曲家であり、連作オペラをはじめとする作品群は国際的に高く評価されている。邦楽の現代化と国際化をリードし、日本とアジア、また東洋と西洋の音楽の交流と創造に大きな貢献をなした。

三木氏は日本文化が歴史的にも国際性を持っており、世界に通用する価値のあることを証立てるという信念のもと、日本を舞台にしたオペラの創作をライフ ワークとして取り組んできた。代表作は、《春琴抄》など5世紀から20世紀に至る各時代の時代精神を探る壮大な『日本史オペラ9連作』である。欧米からの 委嘱により作られた3作品を含んでおり、海外でもたびたび上演され高い評価を受けている。

1964年に同志と設立した「日本音楽集団」は、日本楽器を網羅した新しい合奏形態として国内外で大きな反響を呼んだ。同氏は20年間同団体の音楽監 督を務め、多くの作品を提供するのみならず、現代音楽に適した表現力を持つ箏として二十絃箏(のち21絃,新箏)の開発に関与、さらには160回もの海外 公演をプロデュースした。日本楽器の作曲法を集大成した『日本楽器法』は英語・中国語でも出版され、邦楽器による作曲の国内外における広がりをはじめて可 能なものとした。

日中韓の音楽交流でも先鞭を付け、各国の民族楽器で構成する「オーケストラ・アジア」「アジア・アンサンブル」ほか数々の演奏団体を創立、《愛怨》などアジア音楽の新しい流れを作るとともに、優れたアジア楽器演奏家・作曲家の世界進出の道を拓いた。

全世界で1万回以上演奏されている器楽曲《マリンバ・スピリチュアル》をはじめ、膨大かつ独創的な作品群を誇るが、とりわけ東西管弦楽を結ぶ『鳳凰三 連』や、アジア楽器とオーケストラによる《大地の記憶》など、壮大なスケールで東西楽器が調和する作品世界を実現。2006年には実践の場として北杜国際 音楽祭を創始、「東西音楽交流の聖地」を目指して現在もアクティブに活動中である。

このように、日本とアジアの伝統音楽に新たな生命を吹き込み、日本・アジア・西洋音楽の交流と創造に果たした三木稔氏の功績は大きく、まさに「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。

《急の曲》世界初演の舞台で、指揮のクルト・マズア氏と並びアンコールに応える(1981)
書斎にて、作曲したスコアを推敲(1991)
オペラ《源氏物語》世界初演、セントルイス・オペラ劇場(2000)