贈賞理由

金元龍氏は、現代のアジアを代表する考古学・美術史学者の一人である。同氏がフィールドとする朝鮮半島における考古学の調査と研究は、第二次世界大戦まで、日本人によって行われてきた。終戦後、当然のことながら朝鮮半島の人々の手によって考古学的調査・研究が行われるようになると、金氏は先頭に立って新しい考古学の体系を創造し、構築してきた。同氏は、考古学におけるもっとも基礎的で、重要な課題である土器編年に関して、いち早く三国時代の新羅土器を素材として実践し、その後の方向性の一端を示した。そして、各地で重要遺跡の調査に従事しながら、さらに美術史学の分野へと研究領域に広がりを見せたのである。そうした蓄積の成果は、1970年前後に相次いで、『韓国美術史』と『韓国考古学概論』として結実した。それらは、第二次世界大戦後、韓国人によってはじめて考古学・美術史学の体系化と基盤形成を達成したものとして評価できる。その後も、たとえば旧石器時代の全谷里遺跡や百済の武寧王陵の発掘調査を指揮し、その研究成果を通じて、朝鮮半島の悠久で独自な歴史と文化、ならびに、法則性もしくは国際性を世界に知らしめた。

そのような金元龍氏の学問的業績は、主として『韓国考古学研究』や『韓国美術史研究』の二つの大著に収められているが、そこに流れる視点は、朝鮮半島の考古学・美術史学を東アジア全体の中で位置づけようとするものである。そのことは、中国はもちろん日本の古代文化への深い関心にもつながるが、とりわけ高松塚古墳・藤ノ木古墳そして吉野ヶ里遺跡の理解に際して、東アジアの中での朝鮮半島と日本列島の密接な関連性に、幾多の傾聴すべき指摘となって現われている。

一方、金元龍氏は、韓国における学術・文化に関する多くの要職を歴任し、また、日本をはじめアメリカ・ヨーロッパで講演や講義を行うなど、韓国内外の後進の育成に努め、学問研究の啓蒙に大きく寄与している。

このように、金元龍氏の功績は、韓国の考古学・美術史学を東アジアの視野で体系化し、その発展に大きな貢献を果たしたばかりでなく、アジアの文化の意義を広く世界に示したと評価できるものであり、まさしく「福岡アジア文化賞-大賞」に相応しい業績といえる。