贈賞理由
アジュマルディ・アズラ氏は、優れた歴史学者、革新的な教育者、そして中道・穏健なイスラームを説き尊敬される知識人である。インドネシアにおけるイスラーム研究の発展と、調和ある市民社会の形成に尽力し、またその知的で実践的な活動は、国際社会における異文化間の相互理解にも大きく貢献している。
アズラ氏は、1955年に西スマトラ・パダン市近郊に生まれ、米国コロンビア大学に学び、中東研究で修士号、歴史学で博士号を取得した。氏は、17、18世紀の中東とマレー・インドネシア地域間のウラマー(イスラーム学者)のネットワーク(師弟関係や知的系譜)を、同時代のアラビア語の史資料に依拠して研究し、『東南アジアにおけるイスラーム改革主義の諸起源』(2004年)に結実させた。その中で19世紀以降に同地域で開花するイスラーム改革主義および新神秘主義は、その起源が定説よりもはるかに古く、地域間の交流と相互作用を通して形成されてきたことを実証的に解明した。同書は、近現代イスラーム思想史研究および文明間の思想伝播研究を深化させ、イスラーム世界における知的な東西交流の歴史の厚みを明らかにし、新たな研究展開を導いた。そのほかに、氏は10冊以上の単著書と多数の編著書・論文を発表している。
アズラ氏は、イスラーム教育の刷新を目指し、1998年より国立イスラーム高等学院ジャカルタ校の校長として大幅な組織改革を行った。新たに心理、経済・経営、理工、医学・健康、社会・政治の5学部および大学院を加えて、同校を国立イスラーム大学ジャカルタ校に昇格させ、同大学の初代学長を務めた(2002-06年)。また、2010年から2012年には国際アジア歴史学会の会長を務めるなど、国際的な学術・研究機関で重要な役職を歴任している。
さらにアズラ氏は、イスラームの教えの深い理解にもとづく中道・穏健な立場から、新聞・雑誌・テレビなどのマスメディアを通して、インドネシア建国5原則(パンチャシラ)と文化的多元主義の擁護、宗教間対話の促進などを熱心に説き、調和ある社会発展のために献身している。インドネシア国家研究評議会およびインドネシア学術会議において重要な役割を果たし、2005年に国民的栄誉である「マハプトラ勲章」を受章した。
学術の国際交流と文明・宗教間の対話に積極的に取り組み、イスラーム世界と非イスラーム世界の相互理解に多大な貢献をしてきたアジュマルディ・アズラ氏は、まさに「福岡アジア文化賞 学術研究賞」にふさわしい。