贈賞理由

趙東一氏は、韓国を代表する国文学者である。主著『韓国文学通史』全6巻は、韓国文学研究史上の金字塔と評される。のみならず氏の研究領域は漢字文 化圏全域に及び、『東アジア文学史比較論』『東アジア文明論』などの著作によって比較文学・比較文明の研究者としても国際的に高く評価されている。

趙氏は、韓国の名門ソウル大学校の学部・大学院を修了し、文学博士の学位を得た。1968年以来約40年間啓明、嶺南、ソウル大学校の教授職にあり、この間、十指に余る韓国主要大学校や日本、中国、フランスの大学にも出講した。韓国文学の中堅及び若手研究者で氏の薫陶を受けなかった者は殆どいないと言われる所以である。

趙氏の研究は、韓国古代の口碑文学からスタートし、中世の漢文学・韓国古典から近代文学に及んだ。これらの成果を集大成したものが、1982年から88年にかけて上梓された『韓国文学通史』である。同書は、従来の政治史的区分ではなく、文化史的視点に基づく独自の時代区分を用いることによって韓国文学史の流れを連続的かつダイナミックに把握したこと、社会史・思想史を含めた人文学の総括的在りようを叙述したことで韓国文学研究 史上大きな意義を有している。同書が東アジア出版人会議編『東アジア人文書100』(2011)に韓国代表26点のひとつとして収録されたのは、その意義が認められたからに他ならない。

『韓国文学通史』にも萌芽的な形で存在した比較文学史の視角は、1993年、『東アジア文学史比較論』として結実した。同書は、儒教並びに漢字文化圏に包摂される韓国、日本、中国、ベトナムの文学史を比較し、各国の独自性とともに普遍的な原理の認識に努めたもので、2010年に邦訳され、日本でも多くの読者を得ている。

趙氏はまた、若い頃から漢字・儒教・仏教を共有財産とする東アジア文明に関心を寄せ、特に講壇を離れた後はこの分野の研究に精力を注いできた。その成果が『東アジア文明論』(2010)で、同書において氏は、「東アジア学」「東アジア学問共同体」の構築に向けた積極的な姿勢を示している。

このように趙東一氏は、韓国文学のみならず東アジアの比較文学・比較文明に関しても多大な成果を挙げ、今もなお活発な活動を展開している。その貢献は、まさに「福岡アジア文化賞-学術研究賞」にふさわしい。

パリで韓仏文化賞を受賞(写真左)(2003年)
東京大学客員教授歓迎会にて(写真中央)(1994年)
教え子と一緒に山登り(写真右から3人目)