贈賞理由
クス・ムルティア・パク・ブウォノ氏は、中部ジャワのマタラム王家に300年余りに亘って伝承されてきた宮廷舞踊の継承者である。幼少よりジャワ文化を深く学んだ氏は、伝統ある宮廷舞踊を広く紹介するとともに、中部ジャワ伝統文化の保存と発展のための努力を続け、国際的にも舞踊家としての評価を高めた。
ジャワのマタラム王家は後にソロのスロカルトとジョクジャカルタの2王統に分離して衰退し、さらには押し寄せる近代化やグローバリゼーションの潮流の中にあって多くの困難な課題を抱えながらも、クス・ムルティア氏は、ガムラン音楽、舞踊、影絵芝居、さらには宗教儀礼などの伝統文化を守り続け、若い世代への継承にも尽力してきた。
今日、中部ジャワ文化を代表する存在といえるクス・ムルティア氏は、スロカルト王家の王女として1960年に生まれた。氏は、宮廷に伝承されてきた舞踊を幼時より学び始め、その才能を早くから認められてきた。王家の一員として成長しながら、社会や経済が近代化していく中での伝統文化の存続について深く懸念し、1982年よりスブラス・マレット大学でジャワ文学を専攻し、ジャワ文化の知識を拡げていった。
また、中部ジャワ宮廷文化の存続と社会的理解を得るため、ジャワ宮廷にかつて秘曲として伝承されていたガムラン音楽スリンピ・ソンゴバディを録音してCD化し、その刊行に努力した。さらに、ジャワのみならず日本、香港、ヨーロッパやアメリカでも宮廷舞踊と大編成ガムラン音楽演奏の公演に尽力し、国内外におけるジャワ宮廷音楽への理解を広げて高い評価を受けるにいたった。つとに注目を集めていたバリ島の歌舞に並び、ジャワの伝統文化が国際的に広く認知される契機をつくったその功績は大きい。
これらの活動に加え、インドネシア国民協議会議員として、伝統文化の保存をはじめとする文化行政にも尽力している。このような業績、努力が認められ、スロカルトの王より、宮廷舞踊の保存と発展に関する総括責任者にも任命されている。
自らも優れた舞踊家であり、後継者の育成を通じてジャワ古来の文化の保存と発展にも尽力するクス・ムルティア・パク・ブウォノ氏の功績は、まさに「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。