贈賞理由

ナムジリン・ノロゥバンザト氏は、モンゴルの伝統的民謡オルティン・ドーの第一人者であり、アジア有数の歌手である。

モンゴルに古くから伝承される民謡の代表的な形式であるオルティン・ドーは、自由に形成されるリズムと歌い手の創造性に委ねられた豊かな旋律を特徴としている。モンゴルの伝統的な遊牧生活の中で培われてきた民謡文化は、その担い手である歌い手に豊かな声量と精緻な歌唱技法、さらに美しく情感溢れる優れた表現力を要求してきた。モンゴルの自然、生活、人生などさまざまなテーマを持ち、悠久な歴史を経て歌い継がれたオルティン・ドーは、その歌い手としての要件を十分に備えたノロゥバンザト氏によって世界により広く紹介されることとなったのである。

モンゴル国ドント・ゴビ県の遊牧民の家庭に育ったノロゥバンザト氏は、幼い頃から伝統的な民謡に囲まれて自らも歌の才能を育んでいった。1957年、モスクワで開かれた第6回世界青年音楽祭の民族芸術コンクールにおいて金賞に輝いた同氏の才能は一躍、脚光を浴びることとなる。これを契機にモンゴル国立民族歌舞団の歌手としてデビューした同氏は、以来、モンゴル国内はもとより、東欧諸国をはじめ、スイス、イタリア、中国など世界各地での演奏活動を積極的に展開し、世界中の聴衆の心に深い感銘を与えてきたのである。その優れた歌唱に対しては、1961年の功労歌手の表彰をはじめ、1979年にモンゴル人民芸術家賞、1984年にはモンゴル国家賞が与えられるとともに、アジア有数の声楽家として国際的にも高い評価を受けている。また、日本にも招聘され演奏する機会も回を重ね、追分などとも共通性を指摘されているオルティン・ドーの愛好者を多く生むに至っている。

ノロゥバンザト氏は、現在も、国立民族歌舞団顧問、モンゴル・オルティン・ドー協会会長などの要職にあって、後進の育成、モンゴル芸術文化の発展につとめている。

このように、ナムジリン・ノロゥバンザト氏の功績は、モンゴルの伝統音楽の歌唱を通じてアジア固有の音楽文化の継承・発展に大きく貢献したものであり、まさしく「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」に相応しい業績といえる。