民衆の歴史文書館をつくろう~インド発、NGOジャーナリズムの挑戦
開催日時
2021年10月13日(水)/17:00~18:30
会場等
オンライン(LIVE)配信(YouTubeライブ配信)
モデレーター
竹中 千春氏(立教大学法学部教授)
共催
九州大学

第一部 基調講演

商業化したメディアから民衆のためのジャーナリズムを取り戻そう

 民衆の、民衆による、民衆のための新たなデジタル・ジャーナリズムを展開し、インド社会の中で埋もれてしまいがちな貧しい農民の物語に目を向け続けているパラグミ・サイナート氏。市民フォーラムの第一部では、NGO「農村インド民衆文書館(PARI)」を「デジタル革命の探求である」と述べ、PARIの活動をテーマに基調講演が行われました。

 まずサイナート氏は、メディアによるジャーナリズムは一部の力を持つ人々によって握られており、またそのほとんどが企業であることから、ジャーナリズムは正義でもなく民衆のものでもなく、収入の源泉になり下がってしまったと問題提起しました。2004年の津波被害では被害状況や援助した国については報道されましたが、多くの人が被害を受けたその一方で一部の人たちが膨大な富を得たという事実が報道されることはなかったと語りました。同じような不平等はCOVID-19によるパンデミックの状況でも起きていることをあげ、常に被害を受けているのはごく普通の人々や貧しい人々であるとし、「今こそジャーナリズムの主導権を民衆に取り戻す時だ」と主張しました。

 次に、サイナート氏の活動の拠点となるPARIの報道のあり方を、映像を交えながら紹介しました。地方の農民、労働者、漁業者、森にすむ人たち、芸術家など、普通に生活する人々と触れ合い、信頼を勝ち取り、生活に密着しながら草の根的な活動で人々の「日々の声」を拾い上げ、実体験を報道していく。その地道な取材方法を明らかにしました。映像では、素潜りで海藻を採る女性、気候変動で砂漠化が進む地域、自分たちでラジオ局を作って気候変動について学び・報道している漁民たち、コロナ禍で医療に従事する人々などを紹介。気候変動やパンデミックが引き起こしたインドの人々の現状を詳細に語りました。

 そして、現在インドにおいて重要な問題の一つは、75年前のインド独立のために闘った人たちが高齢のためにこの世を去っていることだと訴えました。かつて自由を得るために戦った「自由の戦士」は最高齢者が104歳となっていることをあげ、「子どもたちが独立の戦いのことを聞く機会がなく、戦いがあったことさえ知らない子どもたちが増えていることは非常に重要な問題だ」と締めくくりました。

第二部 対談

社会の現実をしっかりと捉え人々の真実を映し出す

モデレーター 竹中千春(立教大学法学部教授)

 第二部は竹中千春氏と対談し、サイナート氏が撮影した写真を見ながら、インドの人々の生活や取材活動について触れました。

 多くの写真を撮影してきたサイナート氏は、カメラを通して相手の思いやハートにフォーカスしているのであり、真実の物語はジャーナリストと取材相手のマインドが作り出すものであると伝えました。取材では事実から逃げないことが重要であり、人々との信頼関係を築くことで真実の写真が撮れるのだと解説しました。

 また現代社会における女性の労働についての過酷さや不平等があることを問題視し、全ての女性に学校へ行く権利を与える必要性があると話しました。

 最後に、30年間以上ジャーナリストとして関わってこられたのは、信頼できる仲間がいたからこそだと感謝を述べ、「この30~40年で、世の中にも人々の心の中にも不平等は広がっているが、これから、社会的にも政治的にも文化的にもジェンダー的にも、正義=平等の時代がやってくるのではないか」と希望に満ちたメッセージを送りました。

第三部 質疑応答

 第三部は、一般参加者から寄せられた質問にサイナート氏が答える質疑応答です。福岡、東京、海外から、PARI の活動やインドの民主主義、インドでのコミュニケーションの取り方など多様な質問が寄せられると、サイナート氏は一つひとつに丁寧に答え、予定時間を超えるほど力の入った話が繰り広げられました。