- 開催日時
- 2021年10月9日(土)/16:00~17:30
- 会場等
- 福岡大学 A棟401教室、オンライン(LIVE)配信(YouTubeライブ配信)
- コーディネーター
- 脇村 孝平氏(大阪経済法科大学経済学部教授)
- 対談者
- 高澤 紀恵氏(法政大学文学部教授)
- 共催
- 福岡大学
第一部 基調講演
同時代の世界的な流れをひも解く
「東アジアの近世」論という拡がりのある歴史像を提起している岸本美緒氏。この日は、16世紀後半から18世紀初期の中国に光を当て、不安と希望の入り混じる中で生きる人々の姿とともに、東アジアの規模で同種の歴史のリズムが経験されたというグローバルな文脈について、講演が行われました。
まず、「日本の統一と清朝の成立」として、明末清初期の中国について、同時期の日本や東南アジアで何が起こっていたのかを交えながら岸本氏が解説。明の特色として、対外的な交易関係について政府が管理する朝貢関係に制限されていたことをベースに、モンゴルの侵入、銀の流入、倭寇の活動から、16・17世紀の東アジアに北方と南方それぞれに交易・戦争地帯が形成されたことを挙げ、同じ頃、中国周辺に新興勢力が次々と現れたことも、分かりやすい図版と共に示しました。特に、「日本では1590年の豊臣秀吉による全国統一の後、江戸幕府が265年間存続、同じ頃、中国では女真人(満州人)であるヌルハチが建国した金がその後の清となり267年存続」という同時代の同種の歴史のリズムは、参加者の関心を集めました。リズムだけでなく、新興勢力の共通点として「対外交易の積極性」「軍事競争」「異文化接触」「強力で現実主義的なリーダーシップ」という興味深い視点も、岸本氏より示されました。
次に、「伝統社会の特質」として、16世紀後半~17世紀前半を混乱・戦争の時期、17世紀後半~18世紀を新国家の確立・安定期と位置付けたうえで、中国と日本それぞれの「伝統社会」の特質の相違について、民族構成、身分と集団、経済システムという3つの視点から、岸本氏が比較していきました。その中で示された清代の皇帝や街の様子が描かれた図版も参加者の目を引いていました。
最後に、「共通の世界史的リズム?」として、中国や日本で見られる16世紀後半~18世紀の歴史のリズムはヨーロッパにも当てはまるのかという問いかけをし、対談へとつながっていきました。
第二部 対談
日本、中国、フランス、インド 比較研究で得られる新たな視点
岸本氏と学術的な交流を長年続け、近世フランス社会史・都市史を専門とする高澤紀恵氏との対談が行われました。高澤氏は現在、他地域との比較研究にも取り組んでおり、その活動の原点は岸本氏との若い頃の出会いであるとし、「他領域の研究者と話すことは、思わぬ所からボールが飛んで来てその方向を見上げる感覚と似ています。これまで見えてなかったものに気付く、固定化されたイメージが変われるかもしれないのが刺激的です」と語りました。今回は、岸本氏がその研究で、一貫して問いかけている「秩序」を巡っての対談となりました。現代の日本社会では“あって然るべき”と考えられている「秩序」が、近世フランスや明末清初期においてどのように捉えられているか、脇村氏の専門であるンド社会経済史、アジア経済史での見解を交えながら対談は展開していきました。さらに身分や宗教が「秩序」を形作るのに果した役割といった視点からも比較。岸本氏は「自分達の文化の外の広い世界を知って討論し、社会を見直す。知識を皆で共有し、話し合いながら見直していく足掛かりの一つになれば、と考えています」と語り、時間が足りないほど盛り上がりを見せた対談は閉幕となりました。