- 開催日時
- 2024年11月17日(日)13:00~15:00
- 会場等
- JR博多シティ 10F大会議室
- 主催
- 九州大学アジア・オセアニア研究教育機構、福岡市、(公財)福岡よかトピア国際交流財団
講演会「Love, Loss and Landscape: the oldest Thai poems (愛、喪失、風景~タイ最古の詩の世界~)」
人類を突き動かすものは何なのか
1980年代から急速に経済発展してきたタイの社会変動を、東洋と西洋の知性の協働、社会科学と人文科学の融合をとおして複眼的で総合的な視点から分析し、新たな展開と深化をもたらしてきたパースック・ポンパイチット氏とクリス・ベーカー氏。
詩から見えてくる歴史をとおして、人類に必要なものは何なのか、問いかけます。
講演は、約500年前にタイ語で書かれ、 多くの謎に包まれた4つの長編詩について語られました。湿気が多いタイの風土により原作は残らず、タイトル、著者、時代、誰のため、何のために書いたのか不明である詩を、両氏は全て英訳し、より多くの人に、その感動と驚きを与えました。
一つ目の詩は、Nirat Hariphunchai(ハリプンチャイ(現ランプーン県)への旅路にて)。唯一時代が記されている詩であり、1517年に書かれたものです。巡礼の旅、そして愛する人への言葉が綴られます。街を守る象徴のワニが水しぶきあげて暴れ、美しく咲き誇る赤い花が寺院を覆う様子、その風景とともに情緒が溢れだします。
二つ目の詩Ocean Lament(海の哀歌)。生命みなぎる生物たちがいる風景、そして海への畏怖、愛する人の思い出、と詩は奏でられます。苦悩は、肉体的な苦痛で表現されます。そして、この詩は突然に終わります。しかし、両氏は言います。読む者にイメージを残した詩であると。大海原に浮かぶ船、空っぽの空、失ったもの。
三つ目の詩Twelve Months(12か月)。作者はおそらく王か将来の王。自分自身を、ありのままの人間として、季節の移り変わりとともに表現していきます。英国の詩人アルフレッド テニスンが、有名な哀歌『イン・メモリアム』を書いた同じ理由「歌わなければならないから、歌うだけ」で、この詩を書いたのでしょう。詩を書くこと自体が、悲しみをコントロールする方法だったのです。
四つ目の詩Lilit Phra Lo(リリット プラロー)とは、若い王の名前です。隣国の王女との情熱的な愛と悲劇の詩です。憎しみで争う両国により、王子・王女は矢に射られ倒れます。悲しみが溢れ、両国に復讐を戒めます。この詩は、絵画や彫像となり、舞踏団によって戯曲化され、讃えられている詩です。
情熱的な美しい愛の詩。季節の移ろいとともに、情操が相互作用する風景の詩。2022年、Nirat Hariphunchai 505周年を記念し、同じ旅路を両氏は歩いて辿りました。寺院の中から満月が昇るのを眺め、当時の風景を想いました。愛・喪失・風景。私たち人類に、大きな力を与えてくれるもの、突き動かすものは何なのか。両氏が詩を詠んでいくうちに、タイの風景が浮かび上がり、物語の中に誘いこまれたような雰囲気に会場は包まれていきました。