贈賞理由

張芸謀氏は、現代中国の苦難に満ちた歩みを、一貫して農民・民衆の立場から描きつづけた中国映画を代表する監督であり、世界の映画界の巨匠のひとりである。

張氏は1950年に西安に生まれた。1968年には文化大革命に巻き込まれ、10年間、農村や工場での労働に従事したのち、文化大革命終結後の1978年に再開された北京電影学院に入学し、撮影技術を学ぶ。やがて、同氏をはじめとする同学院の同期生たちの文化大革命の経験をふまえた中国映画変革の熱意が、1980年代半ばに始まる中国映画の革新の原動力となった。

張氏は、その革新の初期の作品として知られる『一人と八人』で初めてカメラマンを、また『黄色い大地』では撮影監督を務め、従来イデオロギー的な物語性が偏重されていた中国映画に力強い造形美をもたらしたことが、これらの作品の画期的な新しさであった。

1986年『古井戸』には俳優として参加して東京国際映画祭最優秀男優賞を得ており、多様な才能の一端を示した。さらに翌年には監督活動にも進出して『紅いコーリャン』を製作する。この作品がベルリン映画祭で金熊賞を得たことは、中国映画に世界的な注目を集めることになった。これは日本占領下の中国農民の抵抗を、すぐれた集団演技と色彩感覚、民話的な大胆で大らかな語り口で描いた映画である。

以後『菊豆』『紅夢』など、造形美と因習や社会に対する批判精神にあふれた作品を製作しつづける。とくに数々の国際映画祭で賞を受賞した『秋菊の物語』『あの子を探して』『初恋のきた道』の一連の作品は、文化大革命の時期から今日における中国の民衆の生き方を描いたすぐれたものである。そこには、苦しい時代にも決して希望を見失なうことなく、懸命に努力した人々が描かれている。その喜怒哀楽の感情の深さと豊かさは、見る人々の共感をさそわずにはおかない。

このように張氏は、1980年代以後今日に至る中国映画の大いなる変革と向上の推進力であり、その作品はたんに中国映画としてすぐれているというにとどまらず、世界の映画のなかでもとくに重要な存在となっており、まさに「福岡アジア文化賞―大賞」にふさわしい業績である。