贈賞理由
ヴォ・チョン・ギア氏は、東南アジアの建築界において、地域の環境や植生に配慮した建築デザイン、竹や木を建築材料として扱う構造デザインなどの一連の作品によって広く知られた建築家である。東南アジアの伝統と現代のデザイン手法や建築技術を融合し、実作を通して、新しい環境建築のあり方に数多くの斬新な提案を行っている建築家として名高い。
ギア氏は、1976年にベトナムのクアンビン省で生まれ、1996年に日本政府奨学金を得て来日、名古屋工業大学を卒業後、東京大学にて大学院工学系研究科修士課程を修了している。社会基盤学専攻での修士論文に対して優秀論文賞である古市公威賞が授与され、東京大学総長賞も与えられている。2006年にVTNアーキテクツを設立、今日までその代表を務めている。この間、2022年に早稲田大学より建築学の博士号を取得しているほか、イェール大学客員教授(2024年より)、ペンシルバニア大学客員教授(2025年より)など、各地の大学で教鞭を執っている。
ギア氏の主な建築作品として、デビュー作のウィンド・アンド・ウォーター・カフェ(ホーチミン、2006年)に始まり、グランド・ワールド・フーコック・ウェルカムセンター(フーコック、2021年)に至る広範に竹を構造材・化粧材として用いた一連の建築シリーズ、緑と融合した都市住宅のあり方を示すタン・ハウス(ダナン、2019年)、セラミック煉瓦壁の通気孔を用いて遮熱と通風に優れた住宅を実現したバッチャン・ハウス(ハノイ、2020年)、緑化のデザインで最小限のエネルギー消費を実現した開放的なアーバン・ファーミング・オフィス(ホーチミン、2022年)などがある。2010年の上海万博では、ギア氏はベトナム・パビリオンを設計している。
これらの建築作品に対して、これまでにベトナム建築家大賞2012(ベトナム、2013年)、プリンス・クラウス賞(オランダ、2016年)、ARCASIA(The Architects Regional Council Asia)の6度のゴールドメダルなどの数多くの建築賞が贈られているほか、世界経済フォーラムは2014年、ギア氏をヤング・グローバル・リーダーのひとりとして選出している。
ヴォ・チョン・ギア氏は、急速な発展を遂げるベトナムにおいて発生する都市課題を解決するための建築のあり方を追究し、熱帯地方においてよく見られる開放的な建物に緑を取り入れ、換気や遮熱を工夫することによって、環境に優しいエコロジカルな建築の姿を説得力を持って提示している。東南アジアにおける若手建築家のトップランナーとして活躍する姿は、まさに「福岡アジア文化賞 芸術・文化賞」にふさわしい。
受賞決定時のメッセージ
この度、福岡アジア文化賞を受賞し、大変光栄に思います。
本賞を受賞することは私個人だけでなく、建築には人と自然の間のハーモニーをもたらすことが出来るという信念を共有する私の同僚や建築仲間たちへの素晴らしい励ましとなります。アジア文化と持続可能性の精神を私たちの仕事に認めて頂いたことに対して、福岡市と福岡アジア文化賞委員会の皆様に深く感謝いたします。私は建築が自然を守り、生物多様性を促進し、そして地球に有害なものを減らす働きをするべきであり、人間のニーズにこたえる以上のものでなければならないと考えます。私は建築作品を通して環境と共に呼吸をする建築物、つまり木々や風、光、そして水を私たちの生活に迎え入れてくれるような空間の創造に努めています。そうすることで、人と自然を再びつなぎ直し、私達はこの惑星から切り離された存在ではなく、その一部であることを思い出す手助けをしたいと思います。
本賞を受賞することは、人間と環境両方に役立つ建築を創造することへの私の決意をさらに強くするものです。
心から感謝致します。