贈賞理由

黄秉冀氏は、韓国の伝統楽器であるカヤグムの演奏家であり作曲家である。氏の柔軟で卓越した音楽的想像力によって、カヤグムの演奏を通して創作された作品の数々は、カヤグムの伝統を受け継ぎつつも現代性と国際性を兼ね備えた独創的な世界を持つ。

黄氏は、1936年ソウルに生まれる。1950年の朝鮮戦争時に疎開した釜山において、初めてカヤグムに出会い、その美しい音色に魅了される。1951年から1959年まで国立国楽院でカヤグムを学ぶとともに、1959年ソウル大学校に国楽科が創設されるのを機に講師として教壇に立った。その後、1974年から2001年まで梨花女子大学校韓国音楽科の教授を務めながら、ヨーロッパや米国など各地で公演を行い、世界を活動の場としている。現在、梨花女子大学校の名誉教授であるとともに、2006年から国立国楽管弦楽団の芸術監督を務めている。

大学で人材育成にあたるなど韓国音楽界に多大な貢献を果たす一方で、自身が優れた演奏家、作曲家として1957年のKBS全国国楽コンクール最優秀賞をはじめとして、1965年の国楽賞、1992年の中央文化大賞、2003年方一榮(パンイルヨン)国楽賞、2006年の大韓民国芸術院賞など名誉ある賞を数々受賞し内外の評価を得るとともに、伝統音楽の創作に先覚者として力を尽くした。

黄氏は、自身を伝統的な演奏家であり現代的な作曲家と表現する。伝統に対する深い理解者でありながら、伝統や自己の感性をも超える独創を見出そうとする。韓国の伝統音楽が形作られた朝鮮王朝の宮廷音楽の時代的枠組をさかのぼり、西域とも交流のあった新羅時代をイメージすることで生まれたのが、氏の音楽の転換点とも言われる1974年の『沈香舞』である。この作品は、美しさと幽玄の妙を見事に表現したものである。既存の固定観念を打破した点で前衛的とも言える1975年の話題作『迷宮』もまた、新たな境地を切り拓いた代表作であり、伝統音楽から現代性、世界性に対して受容と挑戦を続けている。

カヤグムの伝統を正しく受け継ぎ深い理解に裏打ちされた卓越した演奏と、伝統と現 代の超克の中で韓国からアジア、世界へと広がりを見せる作曲との融合により創り出された作品の数々は、演奏家のみならず作曲家として偉大な業績であり、まさに「福岡アジア文化賞-大賞」にふさわしい。

国民学校2年生の頃、自宅にて(1944年)
平壌で開催された汎民族統一音楽会に韓国代表として参加。写真は板門店にて北側に歓迎されるファン氏(1990年)
幻想的な演奏を繰り広げるファン氏