贈賞理由

ヤスミーン・ラリ氏は、パキスタン初の女性建築家として多くの現代建築を手がける一方、パキスタン・ヘリテージ財団を創設し、歴史的建造物の保存と修復活動を行ってきた。また、2005年パキスタン大地震の際に開始した被災者支援プログラムを契機に人道支援活動へも力を注ぎ、同国における社会文化活動の先駆的な女性リーダーとして、歴史遺産保護と災害に強い社会づくりにおいて極めて重要な役割を果たしている。

ラリ氏は1942年、パキスタンのパンジャーブ州に生まれ、都市開発等を担当していた官僚の父の勧めで建築家を目指す。英国オックスフォード建築学校(現オックスフォード・ブルックス大学)で建築学を学んだ後に帰国し、1964年同国初の女性建築家として建築事務所を設立した。住宅や商業ビル等の現代建築を手がける一方、スラム街や不法居住者の生活改善や低コスト住宅の設計にも取り組んだ。1969年王立英国建築家協会メンバーに選出され、その後もパキスタン建築家協会会長、パキスタン建築家・都市設計家協議会初代会長を歴任し、同国における現代建築と都市開発に大きな影響を与えた。この間、カラチの金融貿易センター(1989年)、パキスタン国営石油会社本社ビル(1991年)等のデザインを手がけ『20世紀における世界の建築』(美術出版社ファイドン(英国)2012年)にも選ばれている。

また、ラリ氏は、1980年パキスタン・ヘリテージ財団を創設し、同国の歴史的建造物や文化遺跡を数多く保護してきた。1994年には同国シンド州の文化遺産保護法が制定され、600もの歴史的建造物を文化財保護の対象とすることにも貢献し、カラチの都市形成及び建築物の歴史に関する著作を多数執筆することで、同国の文化財の再発見・再評価と保存に大きな役割を果たしている。

さらに、2005年パキスタン大地震の復興に向けて、被災者支援プログラムを開始し、これを機に人道支援活動も手掛けるようになる。ラリ氏が提供するシェルターは、石灰や竹など現地調達可能な材料と土着的な手法を用いていることから、二酸化炭素の排出量が非常に少なく、被災者自らが簡単につくることができる。同時に、氏は女性やこどもの貧困問題にも取り組み、社会的弱者が自立するための能力向上支援も行っている。

このようなラリ氏の活動は社会的に高く評価され、2006年「ユネスコの60年に貢献した60人の女性」に選出され、2013年には、経済開発における女性の貢献を称える「第8回イスラム開発銀行賞」をパキスタン・ヘリテージ財団が団体として受賞。さらに氏は、国連防災世界会議をはじめ、さまざまな国際会議の招待パネリストとしても被災地における建設・開発と文化遺産保護のあり方について重要な発言を重ねており、2015年第1回シカゴ・ビエンナーレ国際建築展では国内避難民キャンプの低コスト住宅プロジェクトを出展し世界的な注目を集めた。

このようにヤスミーン・ラリ氏は、パキスタン初の女性建築家として女性の社会的活躍に先駆的な道筋を与えながら、且つ文化遺産保護と災害に強い社会づくりに対してきわめて創造的な活動をしてきた。その貢献は、まさに「福岡アジア文化賞 芸術・文化賞」にふさわしい。

2人の息子たちと
パキスタン建築家・都市設計家協議会のメンバーらと
人道支援活動家としても活動

ヤスミーン・ラリ氏からのビデオメッセージ