災害から創造的復興へ:素足の被災者を蘇らせたラリの草の根建築デザイン
開催日時
2016年9月18日(日)/14:00~16:00(開場/13:30)
会場等
アクロス福岡地下2階イベントホール(外部リンク)
参加者
200名

日本と同様に災害の多い国、パキスタン。ラリ氏は、2005年に7万人以上もの死者を出したパキスタン大地震を機に、人道支援活動に力を注いできました。持続可能な未来に向けた災害復興支援の方法とは!?文化遺産保護も手掛けるラリ氏が災害に強い社会づくりについて熱く語ります。

対談者の森氏
対談者の深澤氏
コーディネーターの藤原氏

第1部:ヤスミーン・ラリ氏による基調講演

“現地の自然素材と土着的な手法で援助への依存から自立の文化へ”

ヤスミーン・ラリ氏による基調講演の写真

私が会長を務める パキスタン・ヘリテージ財団は、文化遺産の管理をするだけでなく人道支援活動も行っています。パキスタンには多くの古代遺産があり、それは青銅器時代、インダス文明の時代、ガンダーラの仏教文化といった時代にさかのぼります。そうした時代の建築物は強く強靭性に富むものであり、それらの遺産を保存し、さらに、遺産に関する知識を広げていく様々な活動を行っています。

また、8万人が犠牲になり、40万の家族が家を失った、2005年パキスタン大地震をきっかけに、私は、“素足の建築家”として人道支援活動にも取り組むようになりました。2010年以降も、パキスタンでは毎年のよう に洪水や風水害、地震などが発生し、常に留意しておかなければならない状況です。さらに、パキスタンは発展途上の国であり、多くの人が貧困状態にある中で、国際社会からの援助への依存が増しており、被災者の自尊心がなくなり、自立心が欠如している状態に陥っています。これは本当に深刻かつ重大な問題です。

その対策として、私は、シェルターを被災者と協力して設計し、現地で調達可能な粘土・石灰・竹などの自然素材を使用し、土着的な手法で造 る“草の根建築”を推進しています。このシェルターは費用がほとんどかか らず、被災者自身で建てることができるため、援助への依存の体質を自立 の文化へ変えることができます。また、粘土・石灰・竹といった自然素材を用いているため、二酸化炭素排出量が非常に少なく、地球環境にも優しいものです。

私が考えた自然災害後の復興のための原則があります。まずは、文化遺産と伝統を利用し、誇りと自信を育てるということ。次に、持続可能な材 料を使用し、環境悪化を防ぐということ。さらに、現地の材料と技術を使用 し、素早く届けるということ。最後に、災害リスク軽減法を考案・具体化し、 次の災害に耐えるということです。

パキスタンでは多くの人が貧困状態にありますが、災害時には、特に子どもたちや女性が被害を受けます。私は、子どもや女性のためのエンパワーメントにも力を入れており、住宅だけでなく、衛生的に家事ができる無煙かまどのキッチンやエコトイレをわずかな費用で造る技術なども教 えています。

私はこれからも被災者に寄り添い、被災者の自立に役立つような活動を続けていきたいと思います。

第2部:パネルディスカッション

“災害への備えや復興の在り方をあらためて問い直すきっかけに”

基調講演を受けて藤原惠洋氏は、「被災者に寄り添い、主体性や自立性を奮い立たせるラリ氏のシェルターは、日本の仮設住宅の在り方とはずいぶん違う」と感想を述べました。作家の森まゆみ氏は、東日本大震災後の自身の被災地での活動内容を紹介し、日本の復興の在り方に疑問 を投げ掛ける一方で、ラリ氏が設計したシェルターを「環境問題までを見据えた私たちの行くべき未来」と高く評価しました。深澤良信氏は、国内外で数々の災害復興支援に関わってきた経験や、国連ハビタットの活動内容を紹介し、「復興に大切なのは被災者自身が元気になること。コミュニティーの力が高まれば、支援事業が終わっても次に進める」と、ラリ氏の考えに共鳴しました。それらを受けてラリ氏は、「被災者の自助や心の復興は重要な観点」「救済だけでなく、災害前の備えを世界中でやるべき」 などと力説しました。

フォーラムの前日に熊本地震の被災地に赴いた様子も紹介され、ラリ氏は「あれだけの大地震にもかかわらず躯体自体はしっかり残っていた。 竹の土台でできている建築物は本当に素晴らしい」と感想を述べました。 会場からの「パキスタンと日本が一緒になって取り組めることは?」という質問に対しては、「伝統的な建築を生かしながら、それをさらに強くする方法を考えることが重要だ」と回答。最後に藤原氏が「私たちが協同してやれることはたくさんある。今度は実際の現場でご一緒しましょう」と述べて市民フォーラムを締めくくりました。

パネルディスカッションの様子

2016年 市民フォーラムレポート