贈賞理由
王名氏は、中国の経済発展とともに関心を集めてきたNGO(非営利の非政府組織)研究、環境ガバナンス研究の第一人者である。留学していた日本から帰国後、1998年に清華大学の教職につき、ほぼ同時期、中国で初めてのNGO研究センターを立ち上げた。NGO研究とは1990年代以降生まれてきた様々なNGOを対象に、その活動や組織、ネットワーク、政策及び制度作りなどを研究し、安定した市民社会の形成を目指した学問であり、氏はこの新たな分野を切り開いた先駆者である。
王氏は、1959年にウルムチ市で生まれ、1983年に蘭州大学経済学部を卒業。1992年に来日し、福井大学、京都大学で学んだ後、1994年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程に入学し1997年に博士号を取得した。1998年、清華大学NGO研究センターを創設、初代所長に就任した。また赤十字協会理事(2004年~)、障害者基金会副理事長(2006年~)、明徳公益研究センター理事長(2012年~)などの要職を歴任し、社会問題の解決、市民活動、市民社会の充実に努めている。さらに公益慈善(Philanthropy)の研究を開拓し深め、2015年に清華大学公益慈善研究院の創立に尽力し、院長に就任した。
王氏のこのような社会活動を学術的に支えてきたのが、同僚および若手研究者などと頻繁に行ってきたフィールド調査である。それらの成果は、氏主編のシリーズ『中国NGO研究―ケーススタディー』、『四川大地震公民行動報告』などに見られる。最近では、中国NGOの代表的なリーダー約100名の聞き書き調査・研究を行い、その成果は、『中国NGO口述史(オーラルヒストリー)』(第一部2012年、第二部2014年)として出版された。これらは今後の中国におけるNGO研究、活動の学問的基盤となる。
王氏はまた、国際的なNGO研究を中国に取り入れ、より客観的、社会科学的な学問にすべく、この十数年間、ドイツ、日本、英国、米国、香港など各国・地域の非営利組織の状況を視察し、フィールド調査をベースにまとめた5冊の著作(『ドイツの非営利組織』『日本の非営利組織』『英国の非営利組織』など)を出版している。これらの学術活動が、中国におけるNGO研究の水準を飛躍的に高めたことは言うまでもない。
同時に、清華大学のNGO研究センターおよび公益慈善研究院における教育活動は多くの若手研究者の育成に多大な貢献をなしている。王氏自身もそうであるが、氏の下で育った若手研究者も少なからず日本の大学に留学し、NGO研究、市民社会研究を行い、それらの専門家として活躍するようになっている。氏は日中の人的交流の緊密さが咲かせた大輪であり、教育者としての功績も高く評価されている。
中国の深刻化する環境問題、感染症問題などの様々な分野で、日本と中国は相互に協力関係を築いていくことになるだろう。そのような中で王氏の行ってきたこれまでの学術的、教育的功績はまさに日中協力の促進に重要な役割を果たしてきたと言えよう。
以上のように王名氏の功績はまことに顕著であり、まさに「福岡アジア文化賞 学術研究賞」にふさわしい。