環境問題における日中協力の課題と可能性:市民社会の現在と未来
開催日時
2017年9月23日(土)/13:00~14:30
会場等
エルガーラホール 8F 大ホール(外部リンク)

経済の持続的な高度成長に伴い、中国は様々な環境問題に直面しています。そのような状況に対して環境NGOを柱とする中国の市民社会は積極的な役割を果たしています。一方、日本の市民社会は環境問題に立ち向かってきた長い歴史があり、日中の市民社会には、環境問題に取り組むうえで広範な協力の可能性があります。今回、日中の環境問題における市民社会の現在と未来について考えます。

コメンテーターの大塚氏
ディスカッションの様子
コーディネーターの天児氏

第1部:王 名(ワン・ミン)氏による基調講演

経済成長を遂げた中国の環境汚染問題とその解決に取り組むNGOの発達

基調講演の様子

 まず、中国経済急成長の裏、中国環境汚染の大きな課題について説明します。改革開放以来、中国は史上最大の経済成長を実現しました。その一方、大気・水・土壌の汚染、砂漠化、かん害・水害、生物多様性の破壊、ゴミ処理・食品安全・ダム建設問題、ガンや公害病の増加などの環境問題が爆発的に発生しています。大気汚染でいえばPM2.5の値が500を超える日があり、ガスマスクをして通勤する姿も見られました。

 環境汚染が厳しさを増す中、それに問題意識を持ち、改善・解決に向けて行動するNGO団体も発達してきました。1988年に数千だったNGOの団体数は現在70万に上り、その中で環境分野のNGOは6689団体あります。

 環境NGOの第一の活動は情報公開であり、代表的な団体は「IPE(公衆環境研究センター)」です。彼らはインターネットで水と空気の汚染地図を公開。企業とグリーンサプライチェーンを構築し、アプリを開発、ガバナンスの過程・結果を公開して政府や企業の環境情報、地域汚染源などを市民に知らせました。

 水源地調査やダム反対運動などを行う「緑家園」、村民と一緒に水田保護を行う「淮河衛士」のほか、多くのNGOが植林事業、公益訴訟活動、災害救援、ゴミ対策、野生動物保護などに取り組んでいます。中国のNGOは日本に学ぶことが多いと認識し、日中環境交流を環境保護活動の戦略の一つだと考えています。私自身も中国のNGOや報道機関を連れて水俣を訪れ、著書などで日本のNPO活動を中国の人々に広めました。

 2015年に環境保護法が制定され、中国は今後、環境問題において新たな局面を迎え、「環境問題の深刻化と複雑化」「法律制度の整備化」「中央と地方の政策の協力化」「市民と企業参加の活発化」が進むと考えられます。NGOにも「プラットフォーム化」「ネットワーク化」「専門化」「政府とNGOの協働化」という新たな動きが求められます。日中の協力も「資金支援から協力協働へ」「国ベースからコミュニティベースへ」「プロジェクトベースから問題ベースへ」「政府主導から民間主体へ」の転換が求められ、新しい挑戦を迎えます。しかし、それは市民にとって協力の良い機会となることでしょう。

第2部:パネルディスカッション

中国におけるNGOの今後の課題と日中の環境協力の可能性とは

天児氏は王氏の幅広いネットワークと活動力による功績を紹介し、日中国交正常化45周年の年に受賞した意味は大きいと称えました。大塚氏は、ジャーナリストらが立ち上がったという中国のNGO誕生の背景や若者による新しい動きを紹介しました。NGOと政府との関係を危惧する会場からの質問に、王氏は「今や政府だけでは解決できず、法整備が進む一方、若いリーダーが政府や企業から支援を受けている」と活動の変化を説明。日中の協力について「日本の環境汚染・公害問題の解決策は良きモデル。その経験と教訓を学ぶため市民レベルの協働が必要」と回答。天児氏は環境協力という新しいスタイルで良好な日中関係を築けるとの期待を寄せました。

パネルディスカッションの様子

2017年 市民フォーラムレポート