贈賞理由

蔡國強氏は、世界を舞台にいま最も旺盛な創作活動を続ける現代美術家である。火薬の爆発や花火を用いたダイナミックな作品で知られ、斬新な素材と大胆な手 法を駆使し、宇宙的スケールで展開されるその活動は、現代美術に新たな可能性を拓き続けている。その作品は、国際性と普遍性を有しながらも、中国伝統の世 界観に根ざした深い思想性を持つものとして、世界的に高い評価を得ている。

蔡氏は1957年、古来商港として栄えた福建省泉州に生まれ、文化大革命期に少年時代を過ごし、1980年代前半に上海戯劇学院で舞台美術を学んだ。因習にとらわれない自由な表現方法を求めて、火薬に着目し、その偶発性や創造と破壊の両義性に関心を持った。

1986年から9年間住んだ日本では、火薬を和紙の上で爆発させて描く絵画によって注目され、さらに、1991年福岡での中国前衛美術家展[非常口]でのプロジェクトをはじめ、各地での大規模な野外爆破イベント『外星人のためのプロジェクト』へと展開していく。

1995年以降はニューヨークに移住し、世界各地の美術展に招待され、1999年ヴェネツィア・ビエンナーレ国際金獅子賞など多くの賞を受け、その評 価は揺るぎないものになった。2001年アジア太平洋経済協力会議上海総会をはじめ、世界各地で花火を用いたパフォーマンスを行っているが、なかでも、北 京オリンピック開会式での花火による壮大な叙事詩は、テレビを通じて世界の人々の記憶に刻まれた。

その芸術の特徴は、常に新たな手法に果敢に挑み続ける一方で、火薬、漢方など中国の文化を取り入れ、また風水思想を反映させるなど、欧米とは異なる世 界観を根底に据えるところにある。独自の歴史観や宇宙観に根ざしたその作品には、哲学的とも言える深い思想性が感じられる。その作品世界は、たんに美的な スペクタクルにも、抽象的な観念性にも、手法的な奇抜さにもとどまらない社会的な広がりを持ち、核や環境問題など今日人類が直面する諸課題に応答しようと するものでもある。

既成の美術概念を打破しながら、人類と宇宙をめぐる壮大な物語を紡ぐ独創的な表現で世界の美術界をリードし続ける蔡國強氏の芸術活動は、今日的な問題意識と根源的で普遍的な生命力によって、まさに「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。

上海戯劇学院時代、クラスメートと (本人右端、1984年)
2001年、APEC上海総会花火プロジェクト当日、 打上げ地点立ち入り前のセキュリティチェック[写真提供:Cai Studio]
火薬ドローイング「Bird of Light」の制作現場(2004年、ニューヨーク・ブルックヘブンGrucci Fireworksにて) [撮影:Chris Smith氏、写真提供:Hirshhorn Museum and Sculpture Garden]