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2002年(第13回)福岡アジア文化賞学術研究賞受賞者のアンソニー・リード氏が、6月8日に逝去されました。

歴史学者であるアンソニー・リード氏。東南アジア史研究においてこれまで評価されてこなかった風土や人口と民衆の日常生活の活力ある諸相、たとえば食事・結婚・儀礼・女性・娯楽などを初めて研究対象として体系的にとりあげ、新しい地域史を創りあげた東南アジア史研究を先導してきました。主著『大航海時代の東南アジア』では、膨大な記録を検証して、1450年から1680年までの大規模な海上交易により生み出された東南アジア世界の共通性と独自性、さらに自然環境・宗教を含む多様性を、民衆の生活史の視点から立論し、新しい東南アジア史像を創りあげてきました。
その後も、東南アジアの華人と20世紀前半の中央ヨーロッパにおけるユダヤ人の立場との比較検討や、インドネシアの統一と対立に注目するなど幅広い研究を続けてきました。

授賞式では、「学生時代に日本を訪れた際、言葉の大切さと、理解力や文化の壁をこえてつくられた人間の絆がいかに強いものかを学び、それ以来、何度となく日本を訪れ、日本の友人から生活や文化について学びつづけている」と述べ、日本に親しみを持っていることを伝えてくれました。

また、東南アジア再発見歴史セミナーでは、「『交易の時代』の人々~食事・結婚・遊びから~」と題して、基調講演を行いました。「交易の時代」の東南アジアにおける文化・宗教や、その後、交易の衰退とともに変化していくさまを、グローバリゼーションとローカリゼーションの相互作用が働いたと読み取れるリズムがあったと説きました。さらに自身の著書に対する批判をも紹介し、それに答えるなかで持論をいっそう深めていきました。

アンソニー・リード氏が残した数々のご功績を偲び、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
 

福岡アジア文化賞委員会事務局