- 開催日時
- 2018年9月22日(土)/11:00~13:00
- 会場等
- 福岡市科学館 6階 サイエンスホール(外部リンク)
- パネリスト
- 大泉 啓一郎氏(日本総合研究所上席主任研究員)
- コーディネーター
- 清水 一史氏(福岡アジア文化賞学術研究賞選考委員、九州大学大学院経済学研究院教授)
躍動するいまのアジアをどう捉えたらよいのか。日本のモノづくりをモデルとする「キャッチアップ型工業化論」から、韓国・台湾企業による日本企業の追い抜き、そして、情報通信の技術と消費者の大量データがモノづくりの方向性を規定する現在のデジタル経済論まで、アジア経済をみる視点のダイナミックな変遷が、本人の研究の試行錯誤と重ねて紹介されました。
第1部:末廣 昭氏による基調講演
タイを越えたアジア全体に視野を広げ、4つの段階でアジア経済論を展開
私は大学入学前からアジア研究をやりたいと思っていて、1972年にタイで起こった日本商品不買運動などをきっかけに、タイを研究テーマにしようと考えました。ですが、1997年のアジア通貨危機がターニングポイントとなり、タイだけを見ていたらアジアのことが分からないと痛感して、以後積極的にアジアの問題に視野を広げるようになりました。私のアジア経済論は、ドイツのインダストリー論にならい、1.0から4.0の4つの段階に分けて展開しています。
まず、「アジア経済論1.0」は、人口爆発の問題から入ります。人口が増加することにより、経済成長が低くなり、アジアは低開発であるとされてきました。
次に、私が最も力を注いでいる「アジア経済論2.0」について。後発国がとる工業化として、日本の経験が一つのヒントになっていると考えました。経済的後進性の優位、つまり、遅れて工業化を始めた国は、先発の国よりもいくつかの点で有利な点があります。例えばすでに開発された技術を導入して、それを利用することができます。ですが、後発性の利益を発揮するためには条件が必要で、数ある後発国の中でなぜ東アジアだけが発展を遂げたかというと、①政府レベル ②企業家レベル ③生産現場レベルで工業化のための社会的能力の形成が実現したということが挙げられます。
「アジア経済論3.0」では2.0の見直しを行いました。アーキテクチャ論のオープン化とモジュラー化が進むことによって、電子産業の場合は後発国の企業が先進国を越えることも可能になったのです。ここで強調しておきたいことは、これを実現しているのは「国」ではなく「企業レベル」のキャッチアップであるということです。単位が国から企業に移ったことに注目していただきたいと思います。
最後に、「アジア経済論4.0」について、実は私も今何が起きているのか十分わかりません。私がやってきたアジア経済論とは違うものが起き始めていると考えています。
第2部:パネルディスカッション
デジタル化が加速する中で、国家をどのように捉えればいいのか
大泉氏の「デジタル経済における国家の役割は」の問いに、末廣氏は「日本経済論をベースに考えると、制度・教育などの環境を整備した点では、国家は日本の産業発展に大きな役割を果たと言える。しかし、産業発展は民間企業の努力、というのが共通の認識。日本には技術革新の特徴としてイノベーションを支える国家的枠組みがあり政府が一定程度貢献するが、国家の介入をどこまで許すのかは関わり方が変わってくる。また、メガ企業とマイナー企業に対して同じサポートを行うと反発が起き政府としての公平さを失うことに。つまり従来型の国のサポートは、直接であれ間接であれ難しいのではないかと考える。」と述べました。
ディスカッション終了後も末廣氏の考え方に高い興味を持つ多くの市民が、同氏へ熱心に質問するなど大変活発な時間となりました。