贈賞理由

真鍋大度氏は、アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマー、DJと複数の肩書きを有している。Perfumeとのコラボレーション(2010-)やリオ2016オリンピックフラッグハンドオーバーセレモニーでのARを駆使したプレゼンテーションをはじめ、先駆的なプロジェクトを実践した人物である。

真鍋氏の創作の起点は先進のメディアテクノロジーであり、その時代毎にスマートフォンやタブレット、ドローン、機械学習、AIなどをいち早く取り入れ、それらを従来の枠にとらわれない形式で表現やコミュニケーションへと展開していく。実験的かつ質の高い作品は世界で高い評価を得ており、メディアアートを志すクリエイターのカリスマ的存在となっている。

真鍋氏は、1976年、東京都に生まれ、東京理科大学理学部数学科を卒業後、岐阜県立情報科学芸術アカデミー(IAMAS)を修了している。学部時代は数学を専門的に身に着け論理的な思考力を深め、IAMASにて芸術としての実践を活性化させている。卒業後、2006年にライゾマティクスを共同で設立し、実験的なアート活動とクライアントワークを併走させつつ、世界規模のプロジェクトを多数展開していくなど起業家としても逸材である。また、多数の音楽フェスティバルでミュージシャン兼VJとして出演している点にも注目したい。

これらのバックグラウンドから生み出される作品群は、一貫して科学技術と芸術の融合に関するR&D(研究開発)の上に成り立っている。例えば、坂本龍一『センシング・ストリームズ』(2014)、Björk『Mouth Mantra』(2015)、スクエアプッシャー『Terminal Slam』(2020)、Arca『Incendio』(2023)などのアーティストから、脳情報学者の神谷之康『dissonant imaginary』(2019)や、CERN(欧州原子核研究機構)、ジョドレルバンク天文物理学センター等の科学機関まで、双領域を繋ぐ多彩なコラボレーションを実現している。

真鍋大度氏は、身体に根差す歌やダンスといった表現と科学技術をシンクロさせ、それを芸術へ昇華させつつ、未来社会への問題提起やエンターテインメントとしての可能性を提示している。今後、一層リアルとバーチャルの交錯が進む社会において、豊富な技術的知見を背景にヒトが選択しうる魅力的な未来像を作品やプロジェクトを通して発信し続ける真鍋氏は、世界やアジアにおいて誇るべき存在であり、まさに「福岡アジア文化賞 大賞」にふさわしい。

受賞決定時のビデオメッセージ