贈賞理由

賈樟柯氏は、21世紀の中国を代表する映画監督である。故郷の山西省をはじめとする地方の都市を舞台に据え、急激な経済発展がもたらした社会的歪みの中で苦悩しながらもしたたかに生きる市井の人々、とりわけ若者たちが抱える閉塞感や希望を等身大に描いた数々の作品で世界的に高く評価されている。

1970年、山西省・汾陽(フェンヤン)に生まれた賈氏は、高校時代から小説を書いたり油絵を描くことが好きだったが、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『黄色い大地』(1984年)を観て衝撃を受け、映画監督を志す。93年に北京電影学院に入学すると在学中から頭角をあらわし、スリで生計を立てる汾陽の若者を描いた卒業制作『一瞬の夢』(1997年)を監督。本作は学生作品にもかかわらずベルリン国際映画祭フォーラム部門に入選し、最優秀新人監督賞と最優秀アジア映画賞をダブル受賞した。

続く第2作『プラットホーム』(2000年)では文化大革命終了後の1980年代を背景に、巡回劇団に所属する男女4人の青春を描き、ヴェネチア国際映画祭コンペティションに入選し、ナント三大陸映画祭でグランプリ(金の気球賞)に輝いた。また本作から日本のオフィス北野との提携が始まり、以後は国際的なネットワークのなかで製作する態勢が確立されていく。

その後も『青の稲妻』(2002年)では北京オリンピック開催決定に沸く周囲をよそ目に銀行強盗を企てる失業中の青年、『世界』(2004年)では将来に不安を抱きながら北京郊外のテーマパークで働く男女に焦点を当て、前者はカンヌ国際映画祭、後者はヴェネチア国際映画祭に入選を果たす。そして2006年、三峡ダムに水没する古都・奉節(フォンジェ)にやってきた男女のふれあいを主筋に、幻想的でSF的な場面も挿入し、運命に翻弄されながら生きていく人々を描いた『長江哀歌(エレジー)』がヴェネチア国際映画祭のグランプリ(金獅子賞)に輝き、氏の名声は世界的に不動のものとなった。

賈氏の作品は、故郷の山西省をはじめとする地方の都市を舞台に据え、自由でチャレンジングな映像話法を駆使しながら、急激な社会変動の中をしたたかに生き抜いていく人々の姿を情感豊かにうたい上げる点が大きな特徴である。それは現実に起こった犯罪を基にした『罪の手ざわり』(2013年)、過去・現在・未来の3つのエピソードをつなぎ、ある母と子の人生にグローバル化する中国と世界の関係の変容を重ねた『山河ノスタルジア』(2015年)といった近作群で、ますます研ぎ澄まされている。また氏は2017年から山西省・平遥(ピンヤオ)で国際映画祭を主宰し、若手が作品を発表する場を創設するなど、次世代の育成にも尽力している。

このように賈樟柯氏は、激動の時代に翻弄されながらもしたたかに生きようとする人々の姿を情感豊かに描き出し、中国のみならず世界的に高く評価されている。その貢献は、まさに「福岡アジア文化賞 大賞」にふさわしい。

北京電影学院の学生時代
『長江哀歌』(2006)主演のチャオ・タオと
『罪の手ざわり』(2013)撮影現場にて

賈 樟 柯(ジャ・ジャンクー)氏からのビデオメッセージ