贈賞理由

 朱銘氏はアジアを代表する彫刻家である。東洋の精神性を独自の手法で表現するダイナミックな作品で世界を舞台に活躍し、専門家のみならず市民からも幅広い支持を得ている。また、自らの作品を展観する朱銘美術館を創設するなど、芸術普及における功績にも多大なものがある。

朱銘氏(本名:朱川泰(ジュウ・チュアンタイ))は、1938年、台湾・苗栗(ミャオリー)県に生まれた。当初、伝統的な寺院彫刻を学んだが、31歳で台湾彫刻界の重鎮だった楊英風(ヤン・インフォン)氏の門をくぐり、その指導の下、伝統木彫とモダニズム彫刻を融合させつつも、次第にそれを越えた独特のスタイルを編み出した。1976年に国立歴史博物館(台北市)で行われた初の個展では、『同心協力』『小媽祖』など風土に根ざした題材を、生命力みなぎる力強い木彫で表現し、当時、文化的アイデンティティをめぐる議論が白熱していた台湾芸術界に熱狂的に迎え入れられ、半年間の会期延長まで引き起こす鮮烈なデビューを果たした。さらに、他の追随を許さぬダイナミックな表現「太極拳シリーズ」は彼の名声を確立し、台湾のみならずアジア、欧米でも高く評価された。以後、個や集団としての人間が見事な調和をみせる「人間シリーズ」や、ステンレス、ゴム、スポンジなどの新素材を使った試みなど、その芸術上の挑戦は止まるところを知らない。

朱氏は、1977年の日本を皮切りに、アジア、欧米の各地で精力的に個展を開催しているが、くわえて1997年のパリの中心にあるヴァンドーム広場をはじめとするさまざまな公共空間での展示も彼の名声を高める要因となった。このことは、1999年に台北県金山(チンシャン)の広大な敷地での野外彫刻美術館「朱銘美術館」の創設に結実し、緑豊かな自然の中で作品と環境が共鳴しあう、朱銘芸術集大成の場として、多くの人々を魅了している。

表現の中核に流れる深い東洋の精神性。常に革新を追求する創造へのエネルギー。伝統彫刻とモダニズム彫刻の両軸に支えられた他に類を見ないダイナミックな表現力。それら全てを備えた朱銘氏は、まさに現代アジア美術界の巨匠とも呼ぶべき存在であり、アジア及び世界に賞賛されたその力量と業績は、まさしく「福岡アジア文化賞―芸術・文化賞」にふさわしい。