2024年(第34回)福岡アジア文化賞授賞式
開催日時
2024年9月26日(木)18:30~20:00
会場等
福岡国際会議場 メインホール

 ステージがライトアップされ、音楽と映像、ムービングライトの煌びやかな演出で幕を開けた第34回福岡アジア文化賞授賞式。秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席のもと、大賞の真鍋大度氏、学術研究賞のスニール・アムリス氏、芸術・文化賞のキムスージャ氏と各界関係者、市民が一堂に会して式はスタートしました。

 初めに、高島宗一郎福岡市長が主催者を代表して挨拶。「未来へつながる、持続可能で多様性のある社会の実現が求められているからこそ、アジア地域の多様な文化と価値を広く伝える福岡アジア文化賞の役割は、これまで以上に重要なものとなる」と述べました。続いて秋篠宮皇嗣殿下より、お祝いのお言葉を賜りました。

 審査委員長の石橋達朗九州大学総長より今年度の選考経過報告が行われた後、高島市長と谷川浩道(公財)福岡よかトピア国際交流財団理事長より、賞状とメダルが授与されました。最後に花束が贈呈されると、会場は温かい祝福の拍手に包まれました。

 祝賀パフォーマンスでは、三代目筑紫珠楽氏が登場。福岡県無形文化財の伝統芸能「筑前博多独楽」と「博多金獅子太鼓」の圧巻の舞台で、観客を魅了しました。

 受賞者の輝かしい功績が映像で紹介された後、受賞者によるスピーチでは、活動の信念や喜びの声、そして今後の抱負が伝えられました。続くインタビューでは、スクリーンに作品や著書が投影され、活動の原点や歩みが語られました。

 フィナーレでは受賞者に会場から一段と大きな拍手が送られ、授賞式は幕を閉じました。

ムービングライトと映像によるオープニング
祝賀パフォーマンス 博多金獅子太鼓(三代目筑紫珠楽)
同左・筑前博多独楽
高島市長による主催者代表挨拶
石橋総長による選考経過報告
大賞受賞者インタビュー

秋篠宮皇嗣殿下お言葉

 本日、「第34回福岡アジア文化賞」授賞式が開催されるにあたり、大賞を受賞される真鍋大度氏、学術研究賞を受賞されるスニール・アムリス氏、そして芸術・文化賞を受賞されるキムスージャ氏に心からお祝いを申し上げます。

 そして今日、皆様と共に出席し、受賞者それぞれの活動や研究の一端について、この会場でお話を伺うことができますことを誠に嬉しく思います。

 「福岡アジア文化賞」は、アジア各地で受け継がれている多様な文化を尊重し、その保存と継承に貢献するとともに、新たな文化・芸術の創造、そしてアジアに関わる学術研究に寄与することを目的として、それらに功績のあった方々を顕彰するために創設されました。爾来、アジアの文化とその価値を世界に示すにあたり、本賞の果たした役割には誠に大きなものがあります。

 私自身、東南アジアを中心に、いくつかのアジアの国々を訪れ、多様な風土や自然環境によって創り出され、長い期間にわたって育まれてきた各地固有の歴史や言語、民俗、芸術など、文化の豊かさと深さに関心を抱きました。

 それとともに、貴重な文化を記録・保存・継承し、さらに発展させていくことの大切さや、新たに創造していくことによる広がり、そして、アジアを深く理解するための学術の重要性を強く感じてまいりました。このことからも、本賞がアジアの文化・芸術の価値と、それらについての学術的な側面を伝えていくことは、大変意義深いことと考えます。

 その意味から、本日受賞される3名の方々の優れた業績とその意義が、アジアのみならず広く世界に向けて発信されることを願っております。そして、国際社会全体でそれらを共有することは、人類の貴重な財産の蓄積につながることと思います。

 おわりに、受賞される皆様に改めてお祝いの意を表しますとともに、この「福岡アジア文化賞」を通じて、アジアの各地に対する理解、そして国際社会の平和と友好が促進されることを祈念し、授賞式に寄せる言葉といたします。

大賞受賞者によるスピーチ

テクノロジーと芸術表現の可能性を探求する喜びを伝え続ける

 福岡アジア文化賞を受賞できたことを、心から光栄に思います。この場をお借りして、私の人生と作品に大きな影響を与えてくださった方々への感謝を述べさせていただきます。

 私の創作活動は、音楽、数学、プログラミングを用いて、常にテクノロジーと身体、人間の関係性を探求することに重点を置いてきました。テクノロジーの進歩は私たちの生活に大きな変革をもたらしましたが、同時に私たちの感性や表現の可能性も大きく広げてくれました。私の作品を通じて、テクノロジーが単なる道具ではなく、人間の創造性を増幅させ、新たな芸術表現を生み出す力を持っていることを示すことができたのではないかと思います。

 まず、家族や友人、特に両親への深い感謝を申し上げます。幼少期に与えられた音楽環境と数学環境が今日の私のクリエイティブな活動の礎となっています。

 次に、クリエイティブコーディングのコミュニティに感謝します。このコミュニティで、世界中の才能あるアーティストや技術者と出会い、刺激を受け、数々の国際的なチャンスを得ることができました。私が主宰するアートコレクティブ、ライゾマティクスの仲間たち、そしてコラボレーターの方々にも、深く感謝いたします。

 皆さんの努力と創造性のおかげで、新たな領域に挑戦し、成長する機会を得ることができました。この賞は、私一人の力ではなく、多くの人々の支援と励ましの結果だと考えています。これからもテクノロジーと芸術の融合を追求し、人々に感動と驚きを与える作品を生み続けます。次世代のクリエイターたちにも、テクノロジーと芸術の可能性を探求する喜びを伝えていきたいと思っています。

 アジアと世界の架け橋となるような作品を創造し続けることで、この名誉ある賞に恥じぬよう努力してまいります。改めて、ありがとうございました。

インタビュー

テクノロジーの進歩でこれからどんな芸術表現が生まれていくと思いますか。
真鍋氏:テクノロジーを使った表現は、すぐに古くなってしまう一方、次々と更新できるという面白さがあります。AI(人工知能)と人間との共同制作で、今まで考えられなかったような作品が生まれていくのではないかと思います。

チームで作品を制作する際に大切にしていることは何でしょうか。
真鍋氏:スクリーンで紹介されたborder 2021は様々なプロフェッショナルたちが集まり作ったものです。私はディレクターとして、アーティストやエンジニアの専門性を100%活かせるような作品にしたいと考えています。柔軟に対応する環境を作り、皆で作品を創っていくことが大事ですね。

次世代のクリエイターへのメッセージをお願いします。
真鍋氏:テクノロジーはアーティストにとって有益なツールになります。これからAIにより信じられない量のインプット・アウトプットができるようになると思いますが、最終的には人間がそれを鑑賞して楽しむものです。自分の関心や、洞察力、感性を磨くことを大切にしてほしいです。

学術研究賞受賞者によるスピーチ

歴史研究を通して先人から学び気候危機という脅威に立ち向かう

 福岡市民の皆様、福岡アジア文化賞委員会へ、こうして初めて福岡市を訪れる素敵な機会をいただき、深く感謝いたします。ずっと前から福岡にあこがれていました。今日、私と共にこのステージに立たれていらっしゃる2名の受賞者の方と、私よりも前に本賞を受賞されている素晴らしいアーティストや学者の方々のこと考えると、大変光栄であり、また身の引き締まる思いです。

 知識は一個人の努力だけでは発展しません。私は20年もの間、南アジア、そして東南アジア研究において立派な伝統を持つ日本の同僚との交流を大切にしてきました。そして、私のキャリアを通して、まさに私の先生でもある、真に優秀な学生たちと共に研究できたことはとても幸運でした。彼らは、常に私の話の最初の聴衆であるだけでなく、強い好奇心を持ち、最も批判的な視点で聞いてくれました。

 新たな国際的緊張が生じるとともに、技術革新が道徳的、法的規則を凌駕してしまう危険性のある現代において、私たちは気候危機という共通の脅威に直面しています。この重大な局面では、歴史を研究すること自体を、未来には関係のない道楽だと思う人もいます。私は、それは大きな間違いだと考えます。福岡アジア文化賞は、人類の表現と創造性の蓄積にあたり、アジアの文化が独自の貢献を成しているということを、より明確に示すために創設されたのであり、私たちはいまだかつてないほどにその英知を必要としているのです。

インタビュー

なぜ南アジア・東南アジア地域の歴史を研究しようと思ったのでしょうか。
アムリス氏:気候変動、政治的分断、不平等などの国際問題を考える時、驚くほど多様な文化を持つ南アジア・東南アジア地域の研究は、とても重要です。歴史は、現代の社会的・経済的な問題の原点を理解する方法であるとともに、過去の社会を理解する発見の楽しさもあるのです。

6年ぶりの著書The Burning Earthについてお聞かせください。
アムリス氏:グローバル環境史を描くこと、つまり人々や国家間の暴力や不平等が自然に与える影響を示すことを試みています。そして、西洋の視点からよく語られるグローバル・ヒストリーですが、本書ではアジアの経験や考え方を重視しました。平和構築と環境正義への私の願いとして、読んでもらいたいです。

身近かつ深刻な環境問題について、私たちが歴史から学べることはありますか。
アムリス氏:長い間、アジア社会は自然災害に対し、知恵と回復力をもって順応してきました。その英知の中に、私たちを鼓舞し、未曾有の環境問題に立ち向かう勇気の兆しを見ることができます。また日本は、高度経済成長期に環境破壊を経験した国ですが、被害を認識し、改善を試みた結果、空気や水はきれいになりました。環境危機と対峙する今、日本は良い前例であり、世界を率いていける国だと思います。

芸術・文化賞受賞者によるスピーチ

アーティストとしての取り組みが世界の調和につながってほしい

 秋篠宮皇嗣同妃両殿下、市長、名誉ある委員の皆様、そして来賓の皆様、福岡でお会いすることができ大変嬉しく思います。そして第34回福岡アジア文化賞芸術文化賞受賞者としての名誉を光栄に思います。

 福岡市は世界の中でも、私が若い芸術家の頃から作品を認めてきてくれた都市のひとつです。人生のこの段階で、このような貴重な評価を受けることは、私にとって大きな意味があります。長きに渡る友情、信頼、そしてサポートに感謝申し上げます。

 この場を借りて、私の作品を長い間見ていただき、第34回福岡アジア文化賞芸術文化賞受賞をサポートしてくださ った皆様へ厚く御礼申し上げます。また、アジアとアジアを越えた地域で、アジア芸術と文化のアイデンティの認識をさせるという重要な訳割を担う福岡市に最大限の敬意を表したいと思います。

 最後になりますが、アーティストとしての私の取り組みが、私達が生きるこの破壊的で暴力的な世界において、人間の有様、そして生命と芸術の真の価値を鼓舞し、考察し、調和と平和をもたらすことに貢献できることを願っています。ありがとうございました。

インタビュー

作品には、縫う、包むといった概念が共通していますが、なぜこの手法を選んだのでしょうか。
キムスージャ氏:画家として私は、常にキャンバスの表面を境界線、また障壁として、自己と他者について考え、伝えるための方法論を探していました。ある時、布に針を通そうとして、まるで全宇宙のエネルギーが私の体に落ちて針の先端にたどり着いたような、強い衝撃を感じました。針が縦と横からなる構造を持つキャンバスと同じ作りの軸であることを見つけ、研究しようと決心した瞬間でした。女性の家庭生活を現代アートにおいて再文脈化するために、ボッタリ(韓国の伝統的な風呂敷包み)など日常生活のオブジェを使いました。そして、私は自分のビジョンと実践を、空間や建築のプロジェクトにも広げることができるようになりました。このアイデアはその時から今に至るまで、進化し続けているのです。

福岡市民の皆さんに芸術を通して何を伝えたいですか。
キムスージャ氏:福岡は作品を認め、所蔵していただいた最初の都市で、私にとって、とても特別な場所だと思います。アーティストの将来に対する皆様の洞察力とビジョンに心から感謝します。 1990年代から、日本は芸術や文化も進んでいて、女性アーティストにも親交的な国でした。暴力と破壊によって分断されつつある国際社会の中で、アジアの芸術と文化のために努力を続けている福岡市民と福岡市に感謝の意を表します。