贈賞理由

パラグミ・サイナート氏は、グローバリゼーションの中で急激な変動を続けるインドで貧しい農村を調査し、「農民の物語」を伝え続ける、気骨のジャーナリストである。2014年よりデジタル・ジャーナリズムのプラットフォームとして「People's Archive of Rural India(農村インド民衆文書館)」を立ち上げ、多様な文化を持つ農村社会の情報を収集し、多言語で発信する独自の取り組みを行ってきた。

チェンナイ(旧マドラス)に生まれたが、一族の故郷はアーンドラ・プラデーシュ州で、第4代大統領V・V・ギリ氏を祖父に持つ。ジャワーハルラール・ネルー大学院大学で、古代史の大家であり第8回福岡アジア文化賞学術研究賞を受賞したロミラ・ターパル教授に師事し、歴史学を修めた。

ジャーナリズムの道に進み、UNI通信社の後、政治雑誌『ブリッツ』で副編集長まで務めた。インド型社会主義と呼ばれた独自の混合経済から新自由主義的な市場経済への「改革」を進めた1990年代、フリーランスのジャーナリストとして『タイムズ・オブ・インディア』紙に「インドの貧困の顔」を連載した。84もの記事を束ねた主著Everybody loves a good drought(みんな干ばつが好き)(1996年)は、世界中から絶賛された。1995年の欧州委員会ロレンツォ・ナタリ・メディア賞、2000年のアムネスティ・インターナショナルのグローバル人権ジャーナリズム賞と2001年の国連食糧農業機関のベルマ賞などを受賞し、2007年にはアジアの傑出したジャーナリストなどに贈られるラモン・マグサイサイ賞を受賞した。

輝かしい経歴にもかかわらず、サイナート氏の地道な「知」の技法は変らない。丹念に農村を歩き、人々の話を聞いて情報を集め、カメラのシャッターを切り、貧困や災害の真相を描き出す。2004-2014年には『ザ・ヒンドゥー』紙の農村問題担当編集者として活躍した。氏の仕事ぶりを撮影したドキュメンタリー映画A Tribe of His Own(彼の一族)(2002年)やNero's Guests(ネロの賓客)(2009年)が制作され、国際的に注目された。また、農村改革への熱意ゆえに、連邦政府や州政府のアドバイザーも務めた。

知日派でもあり、2003年に国際交流基金・国際文化会館共催のアジア・リーダーシップ・フェロー・プログラムのフェローとして来日し、多くの人々と交流し、京都・大阪・広島などに足を伸ばし、代表作の写真展を開催して話題となった。2019年に再訪した際には東日本大震災後の被災地を取材し、講演会では今日の農村問題を熱く語った。

若い世代に格差社会と農村の現実を伝えるため、国内外の大学で教鞭を執っている。昨年来、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと貧窮の二重苦にあえぐ農村を取材し、民衆の助け合いを訴えて多忙な日々を送っている。激動に揺れるアジアの中で、「知」と市民的連帯を追求するパラグミ・サイナート氏は、まさに「福岡アジア文化賞 大賞」にふさわしい。

結婚直前のソニヤ&サイナート(1980年代半ば)
オリッサ州カラハンディ県にて農村ジャーナリストらのための現地ワークショップ(2000年)
オリッサ州カラハンディ県にて野外レポ旅行(2001年)
マニラ、マグサイサイ賞ジャーナリズム賞セレモニー(2007年)
Marathi新聞社最大のSakkalにてコールハプールでの周年講義(2009年)
カンファレンスにて受賞のPARIの若いチームと(2019年)

パラグミ・サイナート氏からのビデオメッセージ

YouTube広報動画