アジア、演劇、そして人びと:〈出会い〉を組織する
開催日時
2019年9月12日(木)/19:00~21:00
会場等
アクロス福岡 B2F イベントホール(外部リンク)
パネリスト
高橋 宏幸氏(演劇評論家、桐朋学園芸術短期大学専任講師)
対談者
渡辺 えり氏(劇作家、演出家、女優、日本劇作家協会会長)
コーディネーター
内野 儀氏(学習院女子大学日本文化学科教授、東京大学名誉教授)

 演出家・劇作家として、現代的感覚と伝統的美意識を融合させた優れた舞台を数多く制作してきた佐藤信氏。第1部では若手批評家を交えてこれまでの氏の仕事を振り返り、第2部では劇作家・演出家・女優の渡辺えり氏との対談が行われました。

内野 儀 (学習院女子大学日本文化学科教授・東京大学名誉教授)
高橋 宏幸 (演劇評論家・桐朋学園芸術短期大学専任講師)
渡辺 えり (劇作家・演出家・女優・日本劇作家協会会長)

第1部 パネルディスカッション

テーマ「今、アジアとはなにか」 変化するアジアの捉え方を演劇論から展開

 “アジア”をコンセプトにアジアの諸地域で活動を行なってきた佐藤氏の経歴に触れ、「アジア演劇」というものが昔とは違う局面を迎えていることについて、歴史的背景も交えつつ熱く意見交換されました。

 今、日本の演劇界に求められていること、制度として整えられていることを数十年先取りしていたのではないかというアジア演劇。近代演劇と相対化する試みとして「アジア演劇」という言葉があったが、今はアジア演劇を声高に掲げて活動は行われてはいないと分析しています。しかしアジアにおけるアーティスト同士の共同制作や、それぞれの場所・地域を訪れたり招いたりして行われるワークショップなど、活動は別の形態となってより活発に行われていることが映像とともに紹介されました。さらに「なぜアジアで活動を始めたのか」という問いに、「アジア」という言葉はアジア人が考えたわけではなく非ヨーロッパ圏のことを指した、他から与えられた言葉であることや日本の歴史的な関わりがアジアに興味を持った理由の一つであること、日本列島は間違いなくアジアの東の端であることからアジアについて考えざるを得なかった」という心境について語られました。佐藤氏が行っている活動の一つ「若葉町ウォーフ」でのワークショップの映像とともに、言葉が通じなくてもコミュニケーションが取れてしまう演劇の不思議な力について身振りを入れながら説明。今起きている3つの根本的な価値観の変化(シェア・ネットワーク・トランスボーダリング)についても述べられ、せっかく生きているのだから今の変化を捉えたいとの意見と、仲間への感謝の念で第1部は終了しました。

パネルディスカッションの様子

第2部 対談

テーマ「演劇の夢」 “人間”を観にいく面白さを伝えたい

 40年間芝居を作り続けている渡辺氏との対談は、会場も巻き込み大いに盛り上がりました。佐藤氏が演劇の世界は華やかに思われがちだが、実際は人間臭くてみんなに近いところにあるので、年に2本は観てほしいと語ると、渡辺氏は「私は毎日観てもいい」と述べ、会場の笑いを誘いました。マイノリティにスポットを当てることができるのが演劇の良さだとし、また日本ほど全く違う芝居をしている国はないのではとの見解を示し、同じ戯曲でも違う解釈で演じられることも多く、それを許している日本演劇の寛容さについて語られました。

 一方で劇作家の世界はまだまだ男性社会であることへの疑問から、女性もたくさん活躍しているということをアピールするため劇作家協会会長を引き受けたという経緯や、演劇人はいつもギリギリのところで真剣勝負をしているという、表面ではわからない話も飛び出し、会場も熱気に包まれました。そして話はテーマである「演劇の夢」へ。渡辺氏の座右の銘「夢みる力」をヒントにテーマを考えたと佐藤氏。「演劇をとおして様々なことが一つになるのではないか、だから夢見る力を信じたい」と意見が一致し、活気に満ちた対談が幕を閉じました。

対談の様子

2019年 市民フォーラムレポート